ユニークな笑いに隠された極上のSFミステリー。ラストに待ち受ける悲しき真実とは—— 『外天楼』

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外天楼
『外天楼』(石黒正数/講談社)
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1冊を通して読むことで浮かび上がる予想外の真実と、悲痛な終幕

現代社会には、人工知能を利用した便利なロボットが数多くある。社会に広く馴染んでいるとまでは言い難いが、この先研究がさらに進めば、ロボットが我々同様に働き、日常生活を送る未来も遠くないのかもしれない。

人間とロボットが共に暮らす近未来を舞台にした、ユニークな作品がある。『外天楼』は、奇妙な集合住宅“外天楼”で起きたさまざまな事件をきっかけに、主人公姉弟の哀しい真実が明かされるSFミステリー漫画だ。

クスッと笑えるギャグ要素も多分に含まれており、気軽にサラッと読めてしまう。その割にミステリー要素は重厚で、しっかりと構成されている。人間の複雑怪奇なさまや、“作られた”ロボットの切なさもよく表現されており、思わず考えさせられてしまう。進化するロボットが人知を超えることはあるのか、感情を持たないはずの彼らはどこへ向かうのか。

主人公の鰐沼アリオは、友人らとくだらない日々を送る平凡な男子。大人になり、彼の暮らす迷路のように入り組んだ集合住宅“外天楼”で事件が起こる。捜査一課の桜場冴子は、ベテラン刑事の山上と共に捜査を開始。

そんな折、人工生命学の権威・鬼口獰牙、ロボット工学の第一人者・芹沢勉が何者かに殺害される。捜査が進む中、容疑の目はアリオに向けられるが、事件の真相には哀しくも切ない衝撃の真実が隠されていた……。

著:石黒正数
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人間の生み出すロボットや人工生命体は、いつか人間に成り得るか

シンプルながら骨のある画、クセのあるキャラクター、テンポが良く無理のない展開、飽きのこない構成、何より考え込まれたストーリーは素晴らしく、1冊完結でありながら読後の満足感は非常に高い。

思春期の男子が集まってアダルト本の購入を試みる導入からの予想できない結末への加速は、類を見ない展開で、思わず胸が躍る。ギャグかと思えばシリアスでもあり、軽い笑いを誘うキャラクターのやりとりがあった次の話では、ひどく心が痛んだりもする。起承転結のよく出来た秀抜な作品で、笑える要素を残しつつ、細やかな心理描写も見事である。

とある話に、精巧に作られたが故に自らを人間だと認識したロボットの悲しい最期が描かれている。

人間にごく近いロボットが生み出され、ロボット自体が人間の手を離れて成長するようになれば、いつしかその境界がなくなる日がくるのかもしれない。少なくとも、ロボットが自身を人間だと誤認する日はすぐであろう。

しかしながら、人間は自ら考え行動する生き物だ。その複雑な思考や感情を理論化するのは難しく、人間にさえ理解できない言動が生じることもある。その問題が解決されない限り、やはりロボットが人間と同等になる日は永遠にないのではないか。果たして、人間に人間を作り出すことはできるのか。研究・開発の末に人工生命体はどこへ行き着くのか。

映画、小説、漫画などロボットや人工生命体を題材としたエンターテインメント作品は数多ある。その多くで、ロボットや人工生命体は人間を凌駕する。そこには未知や倫理への畏怖があるのかもしれない。

本作には既存の作品とは異なる観点が多く、内容も非常にユニークだ。そこには人間、ロボット、人工生命体といくつもの視点がある。本作を読み、多角的な視点に立った時あなたは何を思うだろうか。“作られた”生命と共存する、そんな未来を想像してみてほしい。そこに幸せはあるだろうか。

笑って楽しく読めて、読後の満足感は抜群!外さない良作

『外天楼』は、石黒正数氏による、迷路じみた集合住宅・外天楼で起こる事件から驚愕の事実が明らかになるミステリー漫画である。2008〜11年に文芸(小説)誌『メフィスト』にて連載、完結済み、全1巻。2015年には文庫本も発刊された。

摩訶不思議な話が次第に繋がり、想像の斜め上を行く壮大な真実が現れる。気軽に読み始め、フフッと笑えたはずなのに、結末はひどく物哀しい。他では味わえない独特な展開と疾走感のあるストーリーが楽しめるはずだ。

いつか訪れる可能性のある未来。「もし自分が人間ではなかったら…」と考えてみるのも面白い。目視できない体内に隠されているのは、硬い骨ではなく金属かもしれない。決して重たい話ではないのに、読後は人間やロボット、人工生命体の定義について考えさせられてしまう不思議な漫画である。

著:石黒正数
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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