“絶対に銭湯を継ぎたくない跡取り娘”VS“絶対に銭湯を継がせたい謎の転校生”
「ダサい銭湯継ぐなんて絶対にお断り!」。創業86年を誇る「明馬湯」を営む明馬家の一人娘・姫子は、気だるげに番台くらいは手伝うものの家業にはとことん批判的。口を開けばいくらでも文句が出てくるその根底には、毎日休みなく働く親のもとで寂しい思いを重ねた幼少期の記憶があった。そんなある時、彼女の高校に、実家が流行りのスーパー銭湯チェーン「裸一貫」を営んでいるという、風呂巡りが趣味の転校生・湯布院朱美が現れる。
そんな朱美は早々に明馬湯に来店。常連と勘違いされた姫子は朱美に同伴することになり、この銭湯の娘だという隠したい身元がすぐにバレてしまう。その後、朱美に連れられ避けていたサウナで人生初の「ととのう」経験をした姫子は、父の仕事を見直したその瞬間に異様な光景を目にする。それは幻覚ではないと否定した朱美は、「銭湯の未来を守るために、あなたには何がなんでも明馬湯を継いでもらうわ」。と真面目な顔で言い放つが……?
昨今のサウナブームを受けた“女子高生×お風呂コメディ”かと思いきや……?
2019年に放映され、シリーズ化もされたTVドラマ『サ道』(第1シーズン)が火付け役になったとされる昨今のサウナブーム。1964年の東京五輪で選手村にサウナ施設が設置されたことをきっかけとした全国的ブームを第1次、1990年代にスーパー銭湯の開業が相次いだことをきっかけとしたブームを第2次と考えると、現在のそれは第3次に当たるそうだ。(参考:日経BP「日経ビジネス」,「第3次「サウナブーム」でサ活、サ旅拡大 コロナ禍の逆風でも多様化」)
ポップでかわいいカバーが目を引く『とりま、風呂いかね?』も、一見ではそんな第3次サウナブームに乗っかる作品かと思いきや……。予備知識なしでこの展開を予想できる読者はまずいないのではないか。
本作は、まさかのSF要素が奥行きをもたらす“お風呂終末コメディ”だ。
物語が本格化するのは、そのSF要素が登場してから。とはいえそこに至るまでの、“ちょっとツン”な姫子が積極的な朱美にグイグイ引っ張られる出だしから見どころ満載だ。
少し冷めたところのあるギャルかと思いきや、内に秘める熱いものがだんだんと露わになっていく姫子と、風呂&サウナ愛ゆえに暴走しがちで、姫子を振り回す朱美は、実にいいコンビ。賑やかに掛け合い、気持ちよさそうに風呂やサウナを楽しむ彼女たちを追っていると、驚きの本筋が見えるころにはすっかりハマっていること受け合いなのだ。
銭湯を盛り上げるべく奮闘する女子高生+骨太なSF展開=???
第1話の冒頭、1ページ目には、突如として全裸で足湯に現れた朱美が「少し座標がずれた」と呟く様子が描かれている。本筋を把握したうえで、改めてこれを見るとなるほど、本作に被るところのある、あのSFアクション大作を想起させるシーンだと気付く。朱美はなぜ、姫子に「何がなんでも明馬湯を継いでもらう」と言ったのか。なぜ、風呂&サウナに対して並々ならぬ強い愛情を示すのか。銭湯を盛り上げるべく奮闘する女子高生の背景にあるのが、まさかの骨太なSF展開。異色の取り合わせが独自の魅力を放つ一作だ。