拳銃を得た女子高生たちの殺人計画。異なる人生を歩む6人の少女は何を考えるのか――『世界は寒い』

当ページのリンクには広告が含まれています
『世界は寒い』(高野雀/祥伝社)
目次

ある日突然拳銃を手に入れた女子高生たちの行く末

もしも人一人の命を奪える武器を手にしたらどうするか。

「人間誰しも殺したい奴が一人や二人はいる」というが、実際それを可能にする武器があればどうか。多くの場合、「殺したい」とは不満を語る上での枕詞のようなものだ。本気で実行しようと考える者はほぼいないし、それを聞いて犯行予告と捉える者もいない。不満を強調するための言葉の綾である。

だが、まだまだ未熟な高校生であればどうだろう。武器を手にした途端「殺したい」という言葉は急に現実味を帯び、まるで自分が力を得たように錯覚してしまうことだろう。『世界は寒い』は、忘れ物の拳銃を拾った女子高生6人の姿を描いたミステリー漫画だ。10代ならではの不安定でありながら無敵な思考によるテンポの良い会話劇が楽しめる。今は遠い子供だけの世界で、苦くて酸っぱい青春。携帯電話すら流通していなかった時代とは違う現代を生きる女子高生の等身大の姿が垣間見える。セリフは多いが、さっぱりとした絵柄かつコマ割りのため、すっきりした印象でサクサク読み進める。

フードコートでアルバイトをする女子高生6人は、忘れられた紙袋の中に本物の拳銃を見つける。彼女たちはそれぞれ拳銃本体と弾薬(5発)を持ち帰り、協力しながら殺したい相手を一人ずつ殺すという計画を立てる。

誰を殺すか考え、実行に移す方法を話し合いながら仲を深める6人。拳銃の持ち主は誰なのか、果たして殺人計画の結末とは……。

著:高野雀
¥594 (2024/04/13 14:23時点 | Amazon調べ)

目には見えない人間の本質、誰もが違う人生を歩んでいる

登場人物は、容姿も価値観も異なる女子高生6人。口には出さないが、それぞれ世間的に恵まれない境遇に立つ。同じ時を生きながらまるで異なる人生を歩み、自分なりの不満や生き辛さを抱えている。

物語は6人の視点が切り替わりながら展開されるため、それぞれの人生を考えることが可能だ。境遇は目に見えない。心の内は吐き出さなければ分からない。目に見えるものが全てではない、本作にはそれがよく表現されている。モノローグとセリフにそれぞれの人間性がよく表れていて、同じ女子高生でありながらその描き分けが素晴らしい。この世に一人とて、同じ人間はいないのだ。

6人の中で最も分かりやすい憎しみを抱えているといえるのは三好咲良。彼女は幼い頃に自分たち家族を捨て、知らない場所で幸せに暮らす父親を殺したいと考える。逆に、人には理解され難い苦しみを抱えているといえるのは早坂羽依音。彼女は支配的な母親から逃れ、自ら消滅したいと願う。

作中に印象的なモノローグがある――“不幸は同じ顔をしていない”。その人が持つ価値観や考えによっても不幸は異なるし、幸せの形も同じではない。本作を読めば、「十人十色」「人と比べてはいけない」などの言葉の本質が理解できるはず。“自分は自分、人は人”、それが全てだ。

全2冊に凝縮された6人の異なる人生。物語の展開、会話のテンポ、モノローグ中心の人物に焦点を当てたシーン、どこをとっても実に面白く、読みやすいうえに十分な読み応えがある。一見楽しそうに見える少女でも、心の内には深い闇を抱えているかもしれない。彼女たちを見た目で判断することはできないし、大人には理解できない考えや思いもある。

10代は無敵だ。しかし少年少女の心は繊細で変わりやすい。そんな独特で不思議な世界を「もしも拳銃を手にしたら」というテーマで見事に描き切った本作。年齢を問わず、この世界観をぜひ味わってもらいたい。

卓越した言葉選びによる人物描写が特に素晴らしい秀作

『世界は寒い』は、高野雀氏による、拳銃を手に入れた女子高生たちの殺人計画を描いた青春ミステリー漫画である。ヤング女性向け漫画雑誌「FEEL YOUNG」(祥伝社)にて2017〜18年まで連載され、完結済み、全2巻。

今時の女子高生の生活を覗き見たいという人にもおすすめ。

中でも口が悪く、“THE・現代人”な古賀詩音に注目してもらいたい。彼女のセリフはどれも辛辣で考え方も過激だが、とても若者らしい。自己愛が強くクラスメイトとは隔たりもあるが、どこか幸せに見える。つまり、人生を生きやすくするのも、生き辛くするのも自分次第。本作には、生きる上でのさまざまなヒントが隠れている。読む度に新たな発見があるので、繰り返し楽しめる。

物語というよりは、登場人物の人物像や会話劇を楽しむ味わい深い作品。光と影、空白と充満などによって“寒さ”と“温かさ”が巧みに描かれているので、じっくり読んでも心に響く。どのモノローグも言葉選びが絶妙なので、活字派の人にもぜひ一読いただきたい。

著:高野雀
¥594 (2024/04/13 14:23時点 | Amazon調べ)

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

目次