我が子を危険に晒す憎き相手もまた、誰かの我が子である。『マイホームヒーロー』では、愛する娘を守ろうとする父親と、愛する息子を奪われた父親の壮絶な戦いが描かれた超話題作だ!
我が子を守るため家族の“ヒーロー”であろうとする父親
原作『100万の命の上に俺は立っている』の山川直輝、作画『サイコメトラーEIJI』『シバトラ』の朝基まさしによる、家族愛を問う社会派漫画だ。
主人公は、平凡なサラリーマンである鳥栖哲雄。ひとり暮らしの娘・零花が彼氏から暴力を受けているのでは、と疑うことから物語は始まる。暴力の証拠を突き止めようとこっそり娘の部屋を捜索中に、問題の彼氏が訪れたことで、平凡なサラリーマンだった哲雄の人生は大きく狂いだす。とっさにクローゼットに隠れる哲雄だったが、電話の盗み聞きによりこの男が過去に殺人を犯したこと、妻・歌仙の実家の財産を奪い取る計画を立てていることを知る。哲雄は、愛する家族を守る為、なんと男を撲殺してしまったのだ。
しかし、男は半グレ集団のメンバーで、反社会組織の重要幹部である麻取義辰の息子・延人であったことが判明する。延人の捜索を続ける組織は、哲雄とその家族を疑い始める。こうして、哲雄一家と義辰一家の争いは、やがて命を懸けた攻防戦へと発展していくことになるのだ。騒動はやがて、哲雄に協力する第三者の登場や刑事の追跡、歌仙の実家の村にあるカルト教団も巻き込んで、大規模な抗争へと発展していく。
罪を伴う家族愛は果たして正義か
家族を組織から守り続けるため、哲雄は自首ではなく、遺体の処理を決意した。
ミステリー小説の執筆を趣味とする中で得た知識を最大限に活かし、殺害現場を目撃した妻と力を合わせ、その痕跡を消そうと努力する。結果としてそのことが組織に疑いの目を向けさせることとなり、哲雄と家族は更なる危険に晒されることになるわけだ。哲雄は愛する者を守るため、遺体損壊や殺人などさらなる罪を重ねていく。
全ての決断は哲雄にとっての正義であり、最善であり、家族愛の形である。一方で、極悪人である麻取義辰にも愛する家族がいて、彼は息子の安否を確認するべく、さらに哲雄一家を追い込んでいく。憎むべき悪人も誰かの“我が子”であるという当たり前の事実を、ここまで真正面からテーマの中心にもってきた作品は珍しい。罪には罰が降り注ぎ、哲雄の幸せな日常はどんどんと奪われていく……
愛する娘のために何ができたか、間違った相手を選んでしまった娘が望むことは何か、愛する夫が罪に手を染めた時にすべきことは何か……。さまざまな視点から罪の側面が描かれるため、どのような社会的立場の人がよんでも、「もし自分だったら」と考えずにはいられないのが本作の最大の魅力だ。それぞれの立場に正解がある。この物語に描かれる地獄すらもまた誰かにとっては最適な正解なのかもしれないと思わせるところが本作のすごいところだ。
物語の軸である、愛する我が子を守りたい父親と奪われた父親との戦いは、周囲を巻き込み、目まぐるしく展開する。読者一人ひとりが誰かの正義を見つけ、共感し、考える。『マイホームヒーロー』には、ただ読むだけではない、想像力を刺激する要素が詰まった傑作である。
正解はない。全ては読者の判断に委ねられる
『マイホームヒーロー』は既刊21巻。現在も『週刊ヤングマガジン』にて絶賛連載中だ。哲雄の決断はどのように決着するのか、戦いの先に幸せはあるのか。この先の展開からも目が離せない。
父親たちの戦いに勝負がつくのか、否、勝ち負けなどあるのか。彼らが本当に望んでいるものとは。脳をフル回転させて読み進め、いずれ迎える結末をしかと見届け、それぞれの答えを見つけて欲しい。