ジャケ買いを誘発する圧倒的な画力がストーリーを巧みに彩る
1&2巻の表紙のインパクトと「黒魔無双」という響きに引かれ、普段はあまりしないのだが、あらすじ程度の調査で思わず「ジャケ買い」したのが本作だ。「魔王」「旧世界」「神剣」「勇者」といった和風ファンタジー好きの心をくすぐる要素が目白押しで、登場人物のひとり、マルク・ターコイズが新たな勇者になると誓う場面から幕開け。意味深なセリフを口にする魔道士も登場するなど、どんな冒険が繰り広げられるのか自然とワクワクしてしまう。
ただし、本作の主役は勇者ではなく、その仲間である魔道士・モーリス。モーリスは冒険の途中、マルクの思惑で「仲間を裏切り殺した者」という汚名を着せられ殺されてしまうのだ。そんなモーリスは、自分の欲望のためなら仲間の排除もいとわないマルクに恨みを抱き、ある出来事をきっかけに新たな“身体”を得て「勇者マルクを殺す者」として復活を果たす。
ダークファンタジーの系譜に連なる本作では、勇者の栄光を描く一方で、黒魔導士による復讐譚がメインに描かれていく。復活したモーリスが聖剣を手にすることで生前の知能レベルまで回復して意志を取り戻す描写は王道的だが、ビジュアルが◎。そして、モーリス復活のきっかけともなるキャラ・リオンとのやりとりで、世界観や展開の説明をスムーズに魅せていく流れも読者の興味を途切れさせず好感が持てる。
耽美な絵柄と際立つ世界観で令和を代表するダークファンタジーへの予感
第1巻から早くもマルクの配下である聖剣騎士団のメンバーが登場してバトルに突入。戦いを通じてモーリスの優秀さや強さを示しつつ、5年間の死などの要素によってパワーアップを果たしている状況についても迫力の描写で表現し、読んでいて爽快だ。
バトル中に必要な説明ゼリフの入れ込みを必要最低限に抑え、基本的には際立つ画力で作品の世界観を伝えていく見せ方には素直に感動を覚える。表紙ビジュアルが放つパワーや、ダイナミックなバトルアクションからも感じられる精緻さに満ちた画は圧倒的。月並みな表現にはなるものの、純粋にカッコいい。
魔道士による勇者への復讐という異色さを持ちつつも、どこかオーセンティックさを醸し出している世界観に、耽美さあふれる高度な画力が融合した本作は、令和のダークファンタジーの金字塔的存在になり得る可能性を秘めているのではないだろうか。
始まったばかりの物語は短期決戦or長期戦のいずれにしろ今後に期待大
第1巻を読むだけでもマルクの人となりが見え、少なからずモーリスに肩入れしてしまう。物語が進むにつれリオンの目的やモーリスとマルクの関係なども徐々に明らかにされていき、地獄での謎の人物とモーリスの意味深なやりとりも含め、仕掛けと仕込みに抜かりないのもいい。セリフ回しや演出でも物語にグイッと引き込んでくれる。
それにしても“勇者”とは一体何なのだろうか。現実世界でも英雄や勇者と称される者が国民の信望を集めて侵略を企てる行為は、歴史上でも垣間見られる。そういった観点ではマルクの行動にはリアリティを漂わせ、対極にいるモーリスの心情も現実味を伴った感触になっているのではと考えられる。
復讐の是非はさておき、モーリスの思考や行動が憎悪の炎に包まれているだけでなく、理知的に行動しているのは好印象。物語が重くなりすぎず、どこか清廉さもにじみ出ているのは、細部に至るまでバランスが考慮されているからだろう。
次巻では早くもモーリスとマルクが出会ってしまうような予告描写も。復讐譚という構成と現状のエピソード展開を見ると、メインストーリーをスピーディに一気に駆け抜けていくのか。それとも横軸などを広げつつ長期戦となるのか。どちらのタイプの作品になるか大いに気になるところだ。少しでも早く先を知りたい衝動に駆られるが、それでいて大切にじっくり読み続けたくもなる作品といえるだろう。
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