当たり前だが忘れてしまいそうなことに改めて気付かせてくれる『友だちの話』

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友だちの話
『友だちの話』(原作:河原和音/漫画:山川あいじ/集英社)

優しいけど優柔不断で、自分が悪くなくてもすぐに謝ってしまう性格の女子高生・英子と、スタイル抜群の美人だが、気が強くて人とぶつかりがちな性格のもえ。タイプはまったく違うが、二人は「親友」という固い絆で結ばれている。もえは男子生徒から告白されるたび「いいけど、もえとつきあうってことは、英子とつきあうってことだから」と「自分より英子のことを大事にすること」という譲れない条件を掲げていて、結局誰も手を出せずにいた。だが、そんなもえの前に「それでも構わないから付き合いたい」という奇特な男子生徒・土田が現れる。そしてもえの宣言通り、3人で一緒に帰ったり遊んだりするのだが、英子は「なんか私、もえの幸せを邪魔してるんじゃないの?」と次第に肩身が狭くなっていく。揺るがないかに思えた英子ともえの友情は、どうなってしまうのか――?

著:山川あいじ, 著:河原和音
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恋とも友情とも説明がつかない関係性から生まれる物語に心を掴まれる!

この漫画を読んだとき最初に思い浮かべたのは、女優の岸井ゆきのと浜辺美波が共演する映画『やがて海へと届く』(2022年)のことだった。映画は、彩瀬まるの同名小説(講談社)を『四月の永い夢』(2018年)などを手がけた中川龍太郎監督が大幅にアレンジを加えて映画化したものだが、「一見したところまったくタイプが異なる二人の女性の間に芽生える、恋とも友情とも説明がつかない関係性を描いている」という観点から見ると、通じ合う要素が大いにあると感じたからだ。

『友だちの話』は、断りづらい性格である英子が、わがままで女王様気質のもえに振り回されているだけのようにも映るし、もえが「付き合いの長さで言ったらうちらの方が上」「もともと英子と二人でいたところにあんたが後から入ってくるんだから、英子を優先すべし!」と、彼氏とのデートにまで英子を連れ回しているのを見ると、「だったら最初から誰とも付き合わなければいいのに!」と思わずツッコみたくもなる。

だが、スピンオフ的な「友だちの話 2nd」「友だちの話 Final」と読み進めるうちに、「実は主導権を握っているのはもえではなく、どんなときも相手を優先できる英子の方なのではないか……?」と気付かされるところに、この作品の面白さがあるように思えてならない。

出演:岸井ゆきの,浜辺美波, 杉野遥亮, 中崎敏, 鶴田真由, 中嶋朋子, 新谷ゆづみ, 光石研 脚本:中川龍太郎, 梅原英司  監督:中川龍太郎, プロデュース:小川真司, プロデュース:伊藤整
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「なかなかないよ、こんな出会い」「なかなかいないよ、こんな人」

普通なら、モテモテの友だちと一緒に居るとさらにみじめに思えるような気がしなくもないのだが、英子の場合は無理をしてもえと行動を共にしているわけではなく、彼女に憧れながらも「もえが好きだと言ってくれている自分自身」を心の拠り所にしている節もある。一方もえは、見た目に惹かれて近寄ってきても、いざ自分の中身を知ると去っていく人の多さに傷つき辟易している。「つきあうなら英子くらい器がデカい人じゃないと」と、純粋に英子のことを心の拠り所にしている。

ちなみに「2nd」はもえにフられた土田の友人である鳴神の目線で展開するが、この鳴神がまた、友だち思いのイイヤツなのだが、自身の姉を通じて「女の本性」を目の当たりにして生きてきたせいで相当こじらせていて、土田ともえが別れることになる原因を作った(と思い込んでいる)英子を目の敵にしながらも、彼女の優しさに触れ次第に英子に惹かれていく。当の英子は鳴神が自分に想いを寄せているなんて思いもしないが、「英子命」のもえは鳴神が英子に惚れていることもお見通しで、もえ目線で展開する「Final」ではもえと鳴神が「どっちが英子のことを想っているか」で、小競り合いを繰り広げる事態にまで発展していく。

英子ともえの関係は恋でも愛でもないが、「なかなかないよ、こんな出会い」「なかなかいないよ、こんな人」と、相手の存在がいかに稀有なものであるかを互いにしっかりと理解し合えているところに、彼氏であっても決して立ち入ることができないほどの絆の強さがある。『友だちの話』は、「もしも生きている間にそんな相手と巡り合えたなら、異性だろうが、同性だろうが、全力で大切にすべきである」という、当たり前だが忘れてしまいそうなことに改めて気付かせてくれる一冊だ。

著:山川あいじ, 著:河原和音
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出演:岸井ゆきの,浜辺美波, 杉野遥亮, 中崎敏, 鶴田真由, 中嶋朋子, 新谷ゆづみ, 光石研 脚本:中川龍太郎, 梅原英司  監督:中川龍太郎, プロデュース:小川真司, プロデュース:伊藤整
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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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