誰にも言えない秘密を買い取ってくれるとしたら……? 独特な世界観と甘美な味わいに酔いしれる秘密にまつわる物語――『王様の耳』

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『王様の耳』(えすとえむ/小学館)
目次

不思議な“力”で人々を引きつける秘密が“主役”

秘密とは、他人に隠して見せたり教えたりしないことを指す言葉だが、そこに何とも言えない甘美なものを感じてしまうのはなぜだろうか。当事者からすればどうしても隠したいことであるのに対し、第三者からするとのぞいてみたくなるという、立場によって相反することも、秘密がある種の“輝き”を放つ要因とも。だからこそ人は秘密に魅せられるのかもしれない。

そんな秘密に値段をつけて買い取ってくれる場所があるとしたら、あなたはどうするだろうか。秘密を売るだろうか。それとも……。

本作はそんな秘密を査定して買い取るバーを舞台にした物語なのだが、秘密を求める店主と抱え込んでいた秘密を打ち明けたい衝動に駆られた人々がいて、絶妙なバランスで需要と供給の関係が成り立っている。まさに“どんなもの”でも売り買いできる可能性が広がっていきつつある現代社会に、もしかしたらあるかもと思わせてくれるのが興味深い。もちろんバーを訪れた客たちが明かす秘密の数々も、それぞれテイストが異なる“逸品”ぞろいで誰かの秘密を垣間見るゾクゾク感を味わわせてくれる。

著:えすとえむ
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誰かが話す秘密を聞いてしまう背徳感がクセに

客がバーで買い取ってもらえる秘密の条件は、自分自身の秘密であり、これまで誰にも話していないこと。そして、一度買い取ってもらった秘密に関しては、今後は二度と口にすることはできなくなる。3つの条件に関してはいろいろとふくらみそうな要素も垣間見えて期待できるし、他人の秘密を買い取る店主の意図についても、ストーリーの進行につれて少しずつ明かされていくのも興味がそそられる。秘密を扱った作品に秘密を持ったメインキャラクターというのも、なかなか粋だ。

先ほども少し触れたが、本作の味わいは訪れる客、そして客が語る秘密の内容によって大きく異なり、店主とのやり取りが秘密にまつわる物語を彩っていく。シリアスでミステリアスな雰囲気満載の雰囲気はまさにアダルティー。見ては聞いてはいけない話の数々が読者の心を静かに強く引きつける。時に織り込まれるユーモアがほどよい感じのスパイスを効かせているのも好感が持てる。

エピソードの味わいは千差万別――アダルティー&ムーディーな空気感が◎

エピソードの好みは人それぞれだろうが、1巻収録の4つめのエピソードは、とある2人による秘密を軸にした展開になっており、ちょっとしたミステリーな構成で◎。ラストの店主のひと言も深め、深い味わいで楽しませてくれる。もちろん別のエピソードが好きという人もいるだろうが、そこは物語に登場するバー同様、自分好みの“1杯”を見つける楽しみもあるというもの。

そういえば秘密を買い取ってもらいたいことを伝える際、とあるカクテルを注文するのだが、そのレシピにも秘密が。細かな部分までこだわり抜かれた描写が、ますます作品の世界観を際立たせ、いつまでも読んでいたくなる気分にさせてくれる。2023年9月には4巻が発売予定。今度はどのような秘密が買われていくのだろうか。その興味は尽きないが、最後にもう一度聞いてみたい。

秘密の値段を査定し買い取ってくれるとしたら、あなたはどうする?

いろいろな意味で読者の感性を刺激してくる作風を一度ご賞味あれ。

著:えすとえむ
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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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