あなたはカモられる側かカモる側か、それとも……。現在経済の“闇”に実践的な理論で立ち向かう姿が痛快――『カモのネギには毒がある 加茂教授の人間経済学講義』

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『カモのネギには毒がある 加茂教授の人間経済学講義』(甲斐谷忍、原案・夏原武/集英社)
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強力タッグが紡ぎ出す極上の経済エンタメ

本作に登場する「カモリズム」と呼ばれる経済理論。劇中では、現代の経済は「『カモを見つけ 育て そこからカネをむしりとる』のが主流」(※「特別講義「カモリズム経済学」とは」より引用)という考え方のことを指している言葉なのが、そのネーミングは「鴨が葱を背負ってくる」から取られたものである。つまりは、「だまされる者」は貧しく、「だます側」は富んでいく。ある種の“真実”を言い得ているとも。そのこと自体、とても残念ことではあるが……。

そんな現代の経済にまつわるトピックスをテーマに、その裏側はつまびらかにしていく過程を、勧善懲悪の流れに乗せつつも一筋縄ではいかないストーリーで楽しませてくれるのが、本作の醍醐味。第1巻では共済詐欺にはじまり闇金、さらには不正受給に絡んだ詐欺まで、とにかく今どきなネタが次々登場し、読む側の興味をグイッと引きつけてくる。ネタの鮮度や深度については無問題。『クロサギ』(黒丸、原案・夏原武/小学館)シリーズや『正直不動産』(大谷アキラ、原案・夏原武、脚本・水野光博/小学館)など数多くのマンガ原作を手がける夏原武が本作でも原案を手がけており、ダークなテーマを軽妙かつ爽快に演出し極上のエンターテイメントに昇華させる手法は間違いなし。完成度の高さは疑いようもない。

ちなみに、作画を担当しているのは甲斐谷忍。『ソムリエ』(作・城アラキ、画・甲斐谷忍、監修 ・堀賢一/集英社)や『LIAR GAME』(甲斐谷忍/集英社)のほか、現在読売テレビで放送中の連ドラの原作である『新・信長公記〜ノブナガくんと私〜』(甲斐谷忍/講談社)など多くのヒット作を飛ばしており、彼が描く魅惑的なキャラクター造形が物語世界を艶やかに彩る。2人の強力タッグぶりには、思わず胸が躍ってしまう。

加茂教授のキャラクターと、ならではのやり込める手法が痛快

本作を支えているのが、カモリズムの提唱者である経済学者・加茂洋平。“フィールドワーク”と称してさまざまな立場の人間になりすまし、弱者をカモにする人間に近づきその手口を明らかにしていく。こう書くと正義感あふれるいい人をイメージすると思うが、彼にとっては“フィールドワーク”(もちろん正義感はあるのだろうが)。自身の思いと理論に基づき行動する姿は、端から見たら「変人」そのもの。ただそのことを自覚し、ひょうひょうとした佇まいでいるのがたまらない。

そして、自体解決のためには財力を惜しみなく投じるあたり、まさに規格外。だます側とだまされる側が登場するだけに、テーマによっては暗くなりがちだが、そこは加茂のキャラクターが軽快さと重厚さのバランスを絶妙にとっているのが素晴らしい。一見、楽しんでいるような見え方もちょっとしたスパイスとして効いている。

なにより加茂が示す解決手段が、だます側からだまし取られた金銭を取り返すことに重きを置いた構図がまたグッド。警察に突き出す流れの方が簡単なのだろうが、実践的な経済理論を駆使して悪党から金銭を奪い返すというのは、何とも言えずカタルシスを得られるのもいい。だます側にしても、金銭を失うことは大きな痛手となることは想像に難くなく、シンプルに胸のすくような読後感が味わえるだろう。

カタルシスを得つつ現代経済の“裏側”を垣間見られる世界観が魅力

第1巻最初のエピソードである「特別講義『カモリズム経済学」とは」に登場したキャラクターがナビゲーターとなり、経済周りに関する用語や理論、さらには教授の行動に至るまでサポート役を務めているのも、物語のテンポ感を出す上でアシストが効いていて好印象が持てる。彼女が感じることは読者目線に近く、自ずと世界観に浸らせてくれるのもいい。

基本的には1話完結スタイルをとりつつも、引きとして次エピソードへとつながる仕掛けがラストに仕掛けられているため、次へ次へと読む手を止められなくなってしまうはず。ストーリー内には多くの経済に関するワードが登場するが、理解しやすくかみ砕いた形で表現されているので専門知識がなくても存分に物語を堪能できる。巻末掲載の「経済白書」はストーリーを補完するような内容になっており、併せて読むことでより理解を深められるだろう。

1巻ラストでは「もっと 大きな敵と 戦ってもらわなければ ならないからね」というセリフで締められており、第2巻では最新の「マルチ商法」絡みのエピソードが展開。ストーリーが今後どのような広がりを見せていくのか、目が離せない。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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