“人智を超えた力を持つ”真意とは。人間を超越した彼らの苦悩と葛藤を描くアクション漫画――『超人X』

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超人X
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人智を超えるはまさにロマン! その裏に隠された真実とは

特異能力を持つ人間の存在はロマンである。

常人ならざる能力を持てば、人助けのために利用する者、私利私欲のために利用する者に分かれるのが人間というものだ。

「君には才能がある」と言われているような気がして羨ましくもあるが、“化け物”扱いされたり、命が脅かされたり、と決して良いことばかりではないだろう。能力者には能力者なりの苦悩がある。

『超人X』は、身体的な異常を持つ“超人”が存在する世界で、突如として超人になってしまった主人公の成長と苦悩を描くアクション漫画である。

「もしも手から炎を放てたら」「鳥のように空を飛べたら」、このような人間離れした思いは誰もが抱いたことがあるだろう。憧れではあるが、実際にできてしまっては大変だ。誰かに動画を撮られて個人情報を拡散されてしまうかもしれないし、人体実験の対象としてどこかの組織に捕らわれてしまうかもしれない。人間の枠組みを超えるということは、決して良いことばかりではない。本作もそうした、よくある能力者の物語ではあるが、ストーリーの展開が面白く、何より躍動感や臨場感に富んだアクションシーンや覚醒シーン、独創的なコマ割りが無二の素晴らしさなので一読の価値がある。

舞台は超人の増加により、世界国家が自治県に分断された世界。

主人公の黒原トキオは平凡な高校生で、文武両道な友人・東アヅマに憧れていた。ある時、アヅマはトキオの知らせで男性3人組に絡まれていた女性を助けるも、超人となった相手に報復を受けてしまう。

絶体絶命の中、超人になれるとされる注射器を見つけ、2人で打つことに。結果、トキオは“ハゲタカの超人”となり、「ヤマトモリ」という善の超人を育成する私立機関で登録証を取得することになった。そこでトキオはさまざまな超人と出会い、敵対する組織に狙われつつも、超人として成長していく――。

圧倒的な画力と構成力で魅せる、ひと味違う“超能力漫画”

テーマは平凡だが、作画の圧倒的な画力、効果的なコマ割りは実に非凡。特殊な世界観ながら説明臭さは一切なく、そのスピーディーな展開や説得力に満ちた作画で否応無しに引き込まれる。残虐な描写がある一方でコミカルな描写も多く、独自の雰囲気が味わえる。とりわけ静と動によるダイナミックなアクションシーンは秀逸で、その激しさはまさに圧巻。

どのキャラクターも人間らしさに満ちていて、共感度も高い。超人が身近な世界では死者も多い中、人を愛し守らんとする乙田エリイの存在は愛おしい。突然超人になってしまったトキオが戸惑うシーンは作画もコマ割りもやや劇画調になっており、随所に見られるメリハリがさらにいい味を醸している。

超人になる可能性を持つのは1,000人に1人。

望まないまま超人となり、普通の暮らしを奪われてしまうこともある。超人になる過程や抱える思い、その苦悩までしっかりと描かれているので、とても読みやすく感情移入もしやすい。絵柄は美しいながら各々に個性があり、微妙な表情まで繊細に描かれていて、胸に響く読み応えがある。

超人の種類もさまざまで想像するだけで楽しくなるものもあり、無限に広がる能力について考えるのも面白い。

アヅマに憧れ、ずっと彼のようになりたいと思っていたトキオ。トキオの潜在能力に気付いていて、超人にもなれずに劣等感を抱いていたアヅマ。心優しくも悪人の血を継ぐエリイ。異なるそれぞれの思いに翻弄されながらも守衛(キーパー)を目指すこととなった彼ら(超人たち)。物語はまだまだ途中。巻を追うごとに心理描写も丁寧になってきているので、今後の彼らの揺れ動く心模様に期待したい。敵対する組織の全容も明らかになっていないので、今後も広がるであろう物語のスケールと明かされるであろう謎にワクワクが止まらない。

圧巻の“闇堕ち”描写に要注目、漫画の醍醐味が詰まった1冊

『超人X』は、石田スイ氏による、1つの世界を滅ぼすほどの力を持つ“超人X”とそれにまつわる者たちを描いたバトルアクション漫画である。集英社によるWebマンガサイト「となりのヤングジャンプ」にて2021年より連載、未完、現在4巻。次巻となる5巻は2023年1月に発売予定。

同氏による『東京喰種トーキョーグール』(集英社)の読者なら想像できるだろうが、本作にもグロテスクかつエグい描写があるため、苦手な人は要注意。ただ、芸術性すら感じさせる闇を具現化したようなダーク描写は実に素晴らしいので、薄目でも良いので確認してみてほしい。異なる能力を持つ超人たちの姿形もクールかつユニークなので、繰り出す技と共に要チェック!

筆者の注目はアヅマ。誰からも完璧に見える人ほど、心に闇を抱えているものだ。多くの人の憧れの的になることで、より完璧を求めてしまうのかもしれない。自分の中の弱さに押しつぶされず、今後立派なヒーローになってもらいたい。どんなことが起きてもトキオを支える大切な友人であってほしい……。

読む人によってさまざまな意見があるかもしれないが、今後の心理描写に期待して続きを待ちたいと思う。

著:石田スイ
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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