メインテーマの天文学や“観望”(=天体観測)と、ラブコメをミックスさせた学園青春天文ラブコメ(!?)『宙のまにまに』。タイトル代案が『ときめき☆星空グラフィティ!』だったエピソードにも納得なハイテンションさと、本格的な天体観望要素が不思議とマッチする面白さは、連載終了から10年以上を経た現在も色褪せないわけで。
読書好き男子と超絶破天荒少女が星を愛でるラブコメ!?
「月刊アフタヌーン」(講談社)で2005年から2011年まで連載され、2009年にはAT-XなどでTVアニメ化もされた、人気メディアミックス作品『宙のまにまに』。タイトルは「そらのまにまに」と読み、ファンからは“そらまに”の通称で愛されました。
物語の舞台は高校の天文部で、主人公は高校入学と同時に天文部へ引きずり込まれてしまった男子・大八木朔。読書が趣味で根っからインドア派だった彼が、大して興味もなかった天文学を知るところから、物語は進んでいきます。
そんな朔を星の世界に引きずり込んだ張本人は、本作のヒロインで朔の幼馴染・明野美星。朔より1学年上の高2で、朔とは真逆な天真爛漫すぎる超絶破天荒アウトドア系美少女! 朔と大好きな星の世界を共有しようと、子供時代には嫌がる彼を外へ引きずり回した過去も。
過去の思い出がトラウマになっている朔と、幼少時から変わらない破天荒さでグイグイくる美星の関係は進展を……? 同級生の朔に想いを寄せ、朔につきまとう美星を“年増センパイ”と煙たがる姫ちゃんこと蒔田姫は……。と、お決まりのラブコメ展開が突き進んでいきます。
天文学や天体観測の入門書的バイブルにも
物語序盤は、一歩進んで二歩下がるラブコメに天文要素を散りばめた色合い。かつてのラブコメブームを彷彿させるドタバタ感は、好きな人にはたまらない作風でしょう。
逆にそこで挫折すると、作品の本質でもある星や観望の魅力を感じられないまま終わってしまう可能性も……。コミックス10巻で完結と長くはないので、たとえハマらなくても、読み進められることをお勧めします。
物語中盤からは、幼少期から星空好きだったという作者・柏原麻実の、豊富な観望天文知識が随所に盛り込まれていきます。この過程が説明的になり過ぎず、違和感なく星の美しさ・面白さを感じられる構成&演出も、本作品が長く愛され続ける理由のひとつでしょう。
狙いや商業的な演出ではない、作者の「伝えたい」想いが素直に感じられる作風は、漫画ならではの魅力ともいえます。
天文学の初心者向けバイブルともいえそうな本作品からは、天体観測に特化したスピンオフ的な入門書『宙のまにまに 天体観察「超」入門 機材ゼロでも大丈夫!』(講談社)も出版されています。サブタイトル部分の「機材ゼロでも大丈夫!」は、そのまま“宙まに”の世界観でも。残念ながら現在は古本でしか入手できませんが、こちらも併読されてみては?
女性作者らしい優しさと可愛さがあふれる作風&キャラ
また、作品全体のトーンから、女性作者らしい優しさや可愛さ・キレイさを感じられることもポイントに。
コミック各巻の表紙を並べてみればわかる優しさや朗らかさ、楽しげな雰囲気は、作風そのものですから。
中でも女子キャラクターの描き方には、男性作者にない柔らかなタッチを感じられるはず。決していやらしい意味ではない肉感や、ひとつひとつの所作にもリアルな魅力が。男女問わず幅広い読者層から支持される作風が、そんなところにも見受けられます。
ちなみに筆者(♂)は、女子が「スカートをはくときはチーター」という説を本作で初めて知りました。
一方で、少年漫画らしい色濃さには、やや物足りなさを感じる一面も。優しい作画で、細い線がスマートな分、インパクトには欠けるかも……。
ただ、誤解がないようにいっておくと、ストーリー自体は骨太で筋が通ったもの。フラグ立てまくりで破綻するような独善さや矛盾もなく、安心して読み進められます。ゆるふわな作風と芯の生真面目さが生み出すアンバランスさは、本作らしい魅力ともいえるでしょう。
それもまた、作者の「伝えたい、描きたい」想いの真っすぐさなわけで。ラブコメらしい終わり方も含め、こんな高校生活が送れたらいいな(良かったな)と素直に思える作品なので、天文や星に興味がなくても、一読の価値はあるはずですよ。