『不死と罰』――ゾンビが蔓延る世界で生き続ける罪深き青年。この状況は罰なのか、彼と世界を待ち受けるものとは……

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『不死と罰』(佐藤健太郎/秋田書店)
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ある日突然世界に“生ける屍”が溢れる恐怖、生き残る術はあるのか

想像もし得ない出来事に見舞われた時、メタ的な視点が無い限り真実は分からない。例えば、私たち日本人には身近な地震。テレビやラジオなどのメディアを確認しなければ、自身がどのような状況に置かれているかは分かりようがない。そもそもメディアがなければ、目の前で起こることこそが全てだ。

それが未知の生物やウイルスによるものであれば尚更。訳の分からないまま奇怪な事態に飲み込まれ、何とか順応していく他ない。「一体何故こんなことが」と理由を探ったところで、分かるはずもない。『不死と罰』は、無知のウイルスによるゾンビが生まれた世界で、生き残った者たちの奮闘を擬似体験できるユニークな作品である。生存者視点のため、変わりない日常の中で突然ウイルスが蔓延し、あっという間にゾンビ世界に放り込まれる。現実に起きる出来事でないとは言い切れない。変異に前触れはなく、理由も解決法も知りようがないのだから。

主人公のミナト(自称)はラブホテルに滞在中、屋外で凶暴化して不死になる未知のウイルスが蔓延していることを知る。許されざる罪を背負った主人公は生き続けることを決め、清掃員、アイドル、ヤクザなどホテル内の他の生存者と出会い、協力しながら生きる術を模索する。

正体を隠す主人公は、現状は重罪を犯した自身に与えられた罰だと捉え、償い続けるために生きようとしている。ウイルスとは別に、そんな彼を狙う者たちがいた。果たしてミナトの正体は、この世界が辿る道筋とは……。

著:佐藤健太郎
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ゾンビを扱った作品としても見事だが、卓越した人間ドラマこそ見どころ

数あるゾンビ(生ける屍)を扱った作品のひとつだが、本作にはタイトルから伺えるように「罪と罰」という重たいテーマが根底にある。

濃く力強い作画はイラストチックながらリアリティがあり、動画とは異なる漫画の魅力が詰まっている。意思に反して動き回る体の描写は素晴らしく、細やかな線や凹み、言葉とも取れないセリフ、主張するオノマトペが甚だ効いている。妙な現実味を纏い、人が人に喰われる恐ろしさが湧き上がってくる。現代に即した世界観のため、テレビやSNSといったメディア描写がとにかくナチュラルで無意識のうちに引き込まれる。作中で、自らインターネット検索しているように現状や主人公の罪が明らかになってゆく様も真実味があって面白い。この世界に突然ゾンビが現れた時の恐怖はこのような感じなのかもしれない。

屈強かつスピード感のあるゾンビの恐ろしさと迫力は凄まじく、単純なゾンビ漫画としても秀抜。凶暴化、音や光に敏感、脳が弱点など一般的に知られるゾンビの特徴を持ち合わせており、ゾンビとの戦いも見どころなので、ゾンビ作品ラバーにもおすすめできる。とはいえ、本作の魅力は何より人間ドラマにある。生存者の誰もが人間らしく、異なる過去、多彩な考えを持っている。セリフや行動、フラッシュバックによってその個性が巧みに描かれており、興味を掻き立てられる。あなたが生存者なら、どんな風に描かれるだろうか。極限状態でこそ、その人間の本質が見えてくる。現実では起きて欲しくない窮地での人間ドラマこそ面白いものはない。他人事として楽しめる創作物に感謝したい。

少しずつ明かされる主人公の悍ましい罪、それにまつわる密謀。

主人公の起こした事件は惨く、現在の彼からは想像もつかない。彼がなぜ殺人鬼になってしまったのか、彼を狙う人々の企ての内容とは、そもそもウイルスはどこから来たのか。奥深い謎はまだまだ残されている。今後も長くよりディープに味わえそうな本作。ダークコミックファンには刺さりやすい作画と内容だと思うので、ぜひリアルで没入度の高い世界観にハマってほしい。

スプラッター&ダーク描写に定評あり、刺激を求める読者に刺さる1冊

『不死と罰』は、佐藤健太郎氏による、深い闇を抱えた青年が絶望の中でもがき生きる様を描いたサスペンスヒューマンドラマ漫画である。秋田書店による月刊少年漫画雑誌「別冊少年チャンピオン」にて2021年より連載、未完、既刊5巻。

言わずと知れたスプラッター、ダークファンタジー系漫画の名作『魔法少女・オブ・ジ・エンド』(秋田書店)の佐藤氏による本作。紹介が憚られるほどスプラッター度の高い代表作だが、今回はそこまで残虐度は高くない。とはいえ、文章による強烈な残酷表現や鮮血の飛び散る殺戮シーンはあるので耐性のない人には注意が必要。佐藤氏の作品は秀逸なスプラッター要素はもちろん、見事なドラマ表現がとにかく圧巻なので読んで損なし! ページをめくった際の血飛沫で嫌厭してしまっているなら実にもったいない。アートな要素さえ含んでいるので問題ないはずだ。

筆者が気になるのはかつての主人公と、ストーカーの方がよほどマシだと思わせるほどに愛の重いヤクザ・風張。作中において彼らの人間性がどう変わってゆくのかも気になるところだ。生存者と世界に訪れる、考え尽くされたエンディングに期待したい。

著:佐藤健太郎
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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