あの『頭文字D』など“走り”にスポットを当てたクルマ作品とは異なる、一風変わったアプローチから車を愛でる漫画『ぜっしゃか!‐私立四ツ輪女子学院絶滅危惧車学科‐』。JK&旧車というミスマッチングで成立する、不思議な作品だったりもします。
《ぜっしゃか》とは“絶車”で「思い出を再生する学科」
何が妙かといえば、ごくフツーのJKたちが、スバル360、フロンテクーペ、コスモスポーツ、フェアレディSR311、スカイライン(箱スカ)など、その筋では激レア大人気な絶車(=絶滅危惧に瀕している旧車)を乗り回す……わけではなく。
彼女たちが担うのは、そうした旧車のメンテナンス&レストア。知らない人が見れば“ただのガラクタ”な車を、愛でまくりながら整備していく。いわば“エンスー(「enthusiast」の略。車愛好家のことを指す)」)”の極致!? を描く作品なのです。
私立四ツ輪女子学院に通う主人公は、“ぜっしゃか”こと《絶滅危惧車学科》の女子高生。ライバルでもある“へりてか”《ヘリテージカー学科》と小競り合いを繰り返す彼女たちが、旧車のレストアを通して学び、成長していく青春群像劇。
てな基本設定だけでもツッコミどころ満載ですが(苦笑)、彼女たちのモットーは「わたしたちは思い出を再生する学科ですから!」。見た目はポンコツ車でも、オーナーにとっては大切な思い出が詰まった、かけがえのない宝物なのだと……。
「なんかホロッときそう…」でしょ? 懐かしい旧車が登場しまくるテレビ番組『昭和のクルマといつまでも』(BS朝日)をご覧の方なら、確実にヤバい(笑)。同番組を単発スペシャル時代から視聴している筆者が、太鼓判を押します。
60〜70年代の国産名車&マニアックな輸入車が続々登場
登場する“絶車”たちは、60〜70年代の国産車が中心。国内メーカー各社が欧米の模倣から脱皮し、花を開き始めた独自コンセプトで超個性的な車を次々と誕生させていた時代です。プロ野球で例えるなら、ON全盛の巨人V9時代が終わり、お荷物球団の広島カープが初優勝。阪神で田淵と黄金バッテリーを組んでいた江夏が移籍した広島は、黄金期を迎えて日本シリーズで球史に残る“江夏の21球”劇場を……といった頃。漫画サイト的には、『がんばれ!!タブチくん!!』が人気を博した時代というべきでしょうか。(どうせ筆者は報われなかった阪神&近鉄ファン)
コミック本編には《絶車ファイル》なる登場車種の紹介コラムも挿入され、これがまた「ほほう、ふむふむ」と興味深いエピソード満載で。作者の絶車愛や知識の豊富さには、クルマ好きでも驚かされるはず。
ただでさえ激レアな登場車種にしても、フェアレディSR311が左ハンドルの逆輸入車だったりと、一癖も二癖も……な設定が仕込まれています。作者とマニアックな読者のせめぎ合いを楽しめ! 的な作風もまた、好きな人にはたまらない隠し味なわけで。
“ぜっしゃか”が扱う車種は国産車ですが、輸入車マニアの心をくすぐるネタも巧みに盛り込まれます。例えばバモスホンダがネタ車のエピソードでは、ライバルの“へりてか”がフィアット600ムルティプラを持ち出してきたり。攻めすぎた国産車:バモスホンダと、“イタリアダンゴムシ”(笑)なムルティプラの対決発想からして、常人の域を超えているとも!?
マニア成分を控え目にした作風は“100%わからなくても楽しい”
いっぽうで、こうした作品にありがちなマニアックすぎる成分は(意図的に?)控え目。「ピストンがー」「コンロッドがー」「ドライブシャフトがー」「サスペンションアームがー」なんてセリフはなく、あくまで(半分素人な)彼女たち流の楽しみ方&絶車感(?)が基本コンセプト。
彼女たちJKのゆるふわ目線を通すと、ディープな趣味世界もお楽しみ会のようなもの。ともすれば引きそうなマニアックさでも、JKというオブラートで包めば不思議なゆるふわ味に様変わり。JKは今や、キャンプ&アウトドア+JKの『ゆるキャン△』、登山+JKの『ヤマノススメ』、バイク+JKの『ばくおん!』などとも共通する、ある意味、とても便利なギミックだったり。本作でも、絶車とは無関係な着ぐるみ姿が萌えアクセントに……。
マニアックな世界観でも、日常生活の延長線上として描くことで、読者に等身大な楽しみ方を提供できる。こうした要素は、漫画が持つ大きな魅力のひとつじゃないかと。
昨今の『ゆるキャン△』ブームにしても、実はキャンプ初心者な「世界観を100%わかるわけじゃないけれど楽しめちゃってる人」たちが支えているわけで。言い換えれば、「100%わからなくても*%は楽しめる」さじ加減がこの種の漫画のポイントに。その意味では、かなり優秀……なのですよ、この『ぜっしゃか!』って。