無職が見つけた「バカでもできるアルバイト」。雇用主は小学生の“クソガキ”
「すっげーチラシだなこれ どんな仕事なんだろ」。金もなく空腹で街をさまよっていた無職の青年・大友は、電柱に貼られた「バカでもできるアルバイト」という求人を見つけた。これにつられた大友が集合場所に向かうと、そこにランドセルを背負った少年が現れ、「ぼくが雇用主だ」と名乗る。半額弁当や簡易トイレを支給し、大友を街の一角まで誘導した少年は、「明日の10時までここを動かないこと」が“仕事”だと言い残し帰っていった。
そして翌朝。達成できたら5,000円の“仕事”をこなした大友の後ろには、夜通し人が並び長蛇の列が生まれていた。“仕事”とは、とある人気ゲーム機の購入待機列の先頭を確保する、というものだったのだ。「おまえ逃げなかったのか」と合流した少年は8台も購入したゲーム機を、その足で中国人業者に売り飛ばしてしまう。約26万円で買ったものが約29万円で売れることに疑問を抱いた大友に、その少年……金木は説明した。「転売ってやつだ」と。
「罪悪感なんか持つなよ」人気ゲーム機に限定グッズ……転売という“仕事”
金木によると、日本で売り切れが続出しているそのゲーム機は、中国でも同様に人気ながら正規の取り扱いがない。そのために、中国人業者は日本で定価以上で仕入れても、故郷に流せば大きな利益を出すことができる。金木は、その転売に乗る形で転売していたのだ。「すげー簡単に稼げるじゃん!」と感心する大友だったが、買えなかった様子の子どもを目にしてふと表情が曇る。しかし金木は、その横で「罪悪感なんか持つなよ」と言う……。
……ここまで触れれば、かの有名メーカーの最新ハードとして現実社会でも転売の餌食になっていた、あの人気ゲーム機の流通初期の品薄事情が元ネタとなっていることに、ピンとくる方も多いのではないだろうか。『テンバイヤー金木くん』は、このコロナ禍でマスクや消毒用アルコールを商材にした“やりたい放題”ぶりが法規制されたことでもお馴染みの、いまや社会問題のひとつである「転売」とそれを行う「転売ヤー」が題材のマンガだ。
この人気ゲーム機を皮切りに、女性向けイケメンアニメの限定グッズ(金木いわく「オタクはいいカモ」だそうだ)、アイドルのライブ会場限定グッズ、人気コンテンツのコラボカフェ限定グッズ……。作中にはさまざまな転売の“商材”と事例が登場する。転売にまつわる事情がつぶさに描かれていることに驚くが、「経験者なのでは……? みたいに思われることが多い」という作者の早池峰は「敵をやるには相手をよく知る必要がある」とする。
pixivFANBOXにある、早池峰の「転売ヤー漫画かいてると転売ヤーに間違えられる」という記事によれば、「転売ヤーへ興味を向かせ、なにやってるかを知らしめるのが転売ヤー撲滅への第一歩」という思いがあるとのこと(記事ページ)。「この世は金だよ」というセリフも小憎たらしい、いかにもな“クソガキ”の金木だが、彼の荒稼ぎぶりだけを描くわけではないストーリー展開には、たしかにその姿勢が垣間見える。
「嬉しそうな顔すんのに」小学生の彼は、なぜ最年少の転売屋になったのか
根が善人の大友は、にべもない様子で転売に精を出す金木に、ふと“転売ヤー”ではない顔を見ることがある。また当の金木には、大金を稼いでいながら小さなアパートで暮らしている描写があり、さらに「親は関係ない」「遊んでばかりじゃいられない」といったセリフも、(転売を擁護するわけではないが)何らかのやんごとなき事情を推測させる。訳あり小学生のインモラルな“仕事”を描いた先にあるものとは。まさかの題材の一作だ。