身近でリアルな遺産にまつわるトラブルを扱った“局地的”ミステリー
コミックスの単行本を購入すると、実にさまざまな折り込みチラシが封入されている。以前からあった、当月の新刊情報や作品情報はもちろんのこと、最近では注目や話題の新作の第1話がまるごと読めるようなチラシも。先日もとある単行本の折り込みチラシを目にした際、何気なく読んだ試し読みチラシが見事にヒット。それが今回紹介する『相続探偵』だ。
改めて原作者クレジットを見ると、なんとそこには西荻弓絵の名前が。今さら言うまでもないかもしれないが、『ダブル・キッチン』や『ケイゾク』、『SPEC』シリーズなど、数多くのヒットドラマの脚本を手がけてきた人物だ。作品タイトルからもわかるように、相続にまつわるトラブルをテーマにしたミステリーが展開されていく。
エピソード1となる「或る小説家の遺言」は、大御所ミステリー作家の遺産をめぐる相続争いに遭遇するところからスタート。遺産相続を“争族”と表現するあたり、なかなか乙。一癖も二癖もありそうな主人公やその仲間である主要キャラも、小気味よいテンポに合わせてサラッと紹介するあたりも心地いい。
2時間サスペンスドラマのようでいて漫画ならではの新しさもある展開に引き込まれる
それにしても本作の題材となっている遺産相続というと、多かれ少なかれ多くの人が通るもの。大富豪でもそうでなくても、兄弟や親戚が多ければ多いほどもめ事も増えるはず……と感じてしまうのは、ミステリーやサスペンスの見過ぎだろうか。
「トラブルあるところには探偵あり」ということで、ミステリーには探偵は欠かせない。本作の主人公・灰江は、もちろん相続にまつわるトラブル専門の探偵。しかも「或る小説家の遺言」は3人の娘と作家に仕えた秘書、続く「鎌倉の屋敷と兄妹と」では名家を飛び出したシングルマザーとその兄で有名なデイ・トレーダーといったように、各エピソードの“主役”となる登場人物のロールや職業は、ノリや空気感も合わせてまさに往年の2時間サスペンスを彷彿とさせる。
さらに「この人が犯人かな」といった“2サス”を観ているときに感じるような想いをいだきつつ、謎の方はしっかりベールに……という構成も、どこか懐かしくて好感触。それでいて“今っぽさ”もしっかり取り入れており、古くささは微塵も感じさせない。
展開の妙とキャラクターのクセがマッチした作風
世界観やキャラクターなど、ストーリーを彩る要素はいくつかあるが、なかでも「どんでん返し」という手法は王道だが魅力たっぷり。しかもそれを効果的に積み重ね、くり返すことで、物語の面白み&深さはさらに大きくなっていく。本作でも、数多くのドラマを手がけた西荻弓絵ならではのドラマ的な見せ方に加え、どんでん返しの繰り返しが実に巧妙。謎が解明したと思った途端さらなる展開が現れ、グイグイ読み手を引っ張ってくれる。
単行本1巻の巻末には遺言書に関する豆知識が記載されている。その内容もわかりやすくていいのだが、本編と組み合わせて読むことで、より理解が深められるのは悪くない。
主人公の灰江は、コーヒー豆をそのままボリボリ食べたり、元弁護士という肩書きがあったり、遺産に何か思い入れのようなものがあったり、とにかくひょうひょうとした描き方。さらに彼自身、過去に遺産にまつわる何かがあるような描写もあり、今後の成り行きが素直に気になるキャラクターも◎。身近でリアルな“相続ミステリー”に今後も注目していきたい。