愛する人を守るため、迫り来る「死」の運命と孤独に戦う少年。哀しき運命の先にあるものとは―― 『シニギワ』

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『シニギワ』(福田健太郎/集英社)
目次

何人たりとも逃れることのできない「死」の運命

人間は「死」を前に平等である。全ての人間に「死」は必ず訪れる。

現代において、誰一人として「死」から逃げることなどできない。

もし「死」を迎える順番を変えることができたなら、あなたはどうするだろうか。リスクがなければ当然、自身や家族、恋人、友達など周囲の人間を後ろに回そうとするだろう。だが、選択にリスクは付き物。誰かが後ろに回れば、その分別の誰かが犠牲になる。助けたい人数が多いほど必要な犠牲も増える。「死」は確実に訪れるのだから順番を変えるくらい問題ないという考え方もあるだろうが、本来死を迎えるまでにあるはずだった幸せを奪うことになるのも事実。誰かの犠牲の上で、果たして人間は幸せに生きていけるのだろうか。

避けられる「死」を前に、人間はどう動くのか。『シニギワ』は、人の肌に触れることでその“死に際”を見る能力を持つ要守(かなめまもる)の生き様を描いたサスペンス漫画である。短いながらまとまりがあって読みやすく、読後も余韻が残る。「自分だったら」と深く考えさせられる。

主人公の要守は、かつて人の肌に触れることで相手の“死に際”を見ることができる能力を使って人を救おうとするも失敗し、誰かの“死に際”を変えると別の誰かが代わりに死に、自身の体に痛みが与えられることを知ってしまう。

高校生になった要は、“死神”と呼ばれ周囲から恐れられていた。唯一普通に接してくれる同級生の白石カナに恋をし、彼女の悲惨な“死に際”を変えることを決意する。しかし一度死を逃れても、死は絶命するまで追ってくる。要は白石の代わりに死ぬことも考えるが、生きて守り続けることを誓った。

大人になった要は昏睡状態に陥り、白石は要の子を身籠もっていた。再び白石を襲う死。果たして要は運命を変えることができるのか、その選択とは……。

著:福田健太郎
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払い続ける代償、終わりのない逃走、それでも誰かを救えるか

疾走感のある展開で、物語はスムーズに進む。重いテーマながら読みやすく、「死」を葬らんとする要の戦闘シーンといったクライマックスもしっかりとある。作画は美しく、内容の割に恐さはないが、“死に際”の驚きと苦渋に満ちた表情や迫り来る「死」の描写には実にリアリティがある。全ての「死」が、どこか生々しく読者の胸に迫るのだ。

訪れる「死」が運命であれば、「死」はどこまでも追ってくる。「死」に抗う代償は大きく、壮絶な痛みと恐怖をもたらす。誰かを救えば、自身に想像を絶する痛みと消えぬ傷跡が残る。代償を払うことを知っていながら、それでも誰かを救うことなどできるだろうか。救い続けたところで、確実に「死」は訪れるのに、救うことに意味などあるのだろうか。

要の選択は、他者の死を厭わず白石を守り続けること。綺麗事では誰も救えないことを理解し、白石を守るためだけに生きることを決意する。要の選択の先に待つものとは、何か……。読者の皆さんは、本作のラストシーンをどのように捉えるだろうか。筆者としては、「死」の運命から逃れ続ける世界の中で、実に良いエンドに感じる。恐怖に満ちた哀しい物語ではあるが、読後感は意外にも爽やかでスッキリとしている。それは、要が彼なりに最適解を見つけたからなのかもしれない。希望は「死」を乗り越え、未来を指し示す。

本作の奥深いところは、“死に際”は人間性とは無関係という点であろう。他者を平気で傷付ける人間であっても、“死に際”は安らかで幸せなものだったりする。そういう人間を見ると、善なる人のために“死に際”を変えても問題ないように思える。しかし、死者の選択など神の領域、ただの人間である私たちにそのような権利はないのだ。残酷な事実であるが、やはり「死」を前に全ての人間は平等である。未知なる能力に目覚めた時、私たちは人間のままでいられるだろうか。要をはじめ、さまざまな登場人物の立場に立って、「自分ならどうするか」と考えてみるのも面白い。

シリアスなテーマを一冊に凝縮し、短いながら描き切った良作

『シニギワ』は、特殊能力によって死神と恐れられる主人公の過去から現在、その行く末を描いた福田健太郎氏によるサスペンス・ヒューマンドラマ漫画。月刊漫画雑誌「ジャンプGIGA」にて2016年に短期連載され、同年に単行本化、完結済み、全1巻。

重いテーマながら1巻にギュッとまとまり、考え得るベストなエンディングを迎えている点が素晴らしい。主人公である要の心の葛藤を中心に、現実味を帯びた「死」の恐怖が丁寧に描出されている。展開が早いため言及が欲しい部分も多々あるが、「サクッと読めて、ある程度の満足感があれば良い」と考える人には最適な漫画といえよう。

余談だが、筆者の好きな映画に、本作のように「死」の運命からは逃れられない若者たちの様を描いた『ファイナル・デスティネーション』シリーズがある。グロテスクかつ後味も悪いので、気になる人のみ鑑賞してみてほしい。その後に本作を読むと、エンディングの見え方が変わるかもしれない。

著:福田健太郎
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出演:デヴォン・サワ, アリ・ラーター, カー・スミス, トニー・トッド, 脚本:グレン・モーガン, ジェームズ・ウォン, ジェフリー・レディック  監督:ジェームズ・ウォン
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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