女子高生ヒロインと男子系趣味・研究題材を組み合わせる手法が定番になりつつある昨今、ついに登場した鉱物採集マンガ『瑠璃の宝石』。ミスマッチングなキワモノ作品かと思いきや、鉱物学を専修した作者が描き出す世界観は、地学の奥深さに触れる面白さにも満ちていたりします。
快挙かもしれない“きゃっきゃうふふ”な地質学!?
女子高生ヒロイン×男子系趣味漫画が市民権を得た感もある昨今は、さまざまな方向性に作品の幅が広がりつつあります。
女子高生とバイクを組み合わせた『ばくおん!!』(おりもとみまな/秋田書店)、釣り好きなJKライフを描く『放課後ていぼう日誌』(小坂泰之/秋田書店)や『スローループ』(うちのまいこ/芳文社)など、良くも悪くも男臭い、女子とは縁遠く思われる世界観を、軽やかなタッチで楽しく描いた作品が増えているのです。あの『ゆるキャン△』(あfろ/芳文社)にしても、当初は同類のマニアック作品だと思われていたわけで……。
とはいえ、ゆるふわで“きゃっきゃうふふ”な女子世界と、もっとも縁遠いだろう地学の組み合わせとなれば、その敷居は一気に高くなるはず。それも、宇宙モノではない地質・鉱物学なら余計に……。
ところが、その鉱物学が漫画化されてしまったのです。よりによって、“鉱物採集”にハマッた女子高生を主人公に。これはもう、思わず唸ってしまう快挙かも!?
女子高生ヒロインはマニアック作品の最適解!?
本作のヒロインは、宝石やアクセサリーが大好きな、どちらかといえばギャル系の元気JK・瑠璃(ルリ)。キレイで可愛い水晶のアクセに憬れるけれど、お小遣いでは買えません。でも、おじいちゃんが山菜採りで水晶を拾っていたと聞き、「エ? 水晶って山にあるの!?」。
そこからの行動力は、さすが現役JKと思わせるハンパなさ。向かった山奥で願い通りの水晶を見つけた彼女は、恐るべき貪欲さと旺盛な知識欲で、鉱物学のイロハを学んでいきます。好奇心の塊のようなキャラクターからは、女子高生ヒロインが作品的に最適解だったのかも?と感じられたりも。
初めての鉱物採集で巨晶花崗岩(ペグマタイト)鉱床を発見、鉱物学の先生となってくれる大学院生・凪(ナギ)との出会い、同じく鉱物採集好きな女子高生の登場など、物語進行上で都合よすぎる面がなきにしもあらず……とはいえ、生き生きとしたキャラクターの魅力が、そんな邪念を払ってくれます。
ルリの前向きさや積極性には、作者自身の鉱物・地質学に対する思い入れも見え隠れします。その熱さが、キャラクターをパワーアップさせているような。
作者の「伝えたい」想いをダイレクトに反映した作品が、面白くないわけがありません。カラーではないのに鉱石の鮮やかな色が感じられる様も、そうした熱意が生み出す錯覚なのでしょうか。
女子高生探検家の宝探しは冒険アドベンチャー!?
一方で、抑えるべき点がきちんと描かれている点にも好感が。
鉱物採集の面白さを知り、ガーネットの採集にチャレンジするルリは、初めて「鉱物採集禁止」の看板に遭遇。土砂災害の危険や自然環境保護について、社会勉強を重ねていきます。こうしたマナー&モラルが説教臭くならずに盛り込まれた作風は、かつて理科教師だったという作者の良心なのかもしれません。
自然環境を学びながら、ルリは「石が動く」ことも知ります。地殻変動、火山活動、河川の流れなど、数万年、数十万年のスケール(=時間感覚)で鉱石は動き続ける。それこそ鉱物採集に大事な視点だと学ぶのです。
勉強的に堅い話になりがちなテーマを、ストーリーとして面白&楽しく魅せる手腕には、素直に感心させられます。さまざまな知識を吸収し、成長していくルリの姿を通し、読み手も「へぇー、なるほど!」の連続になるはず。コミックスで「凪の小憩」と名付けられた地質学・鉱物コラムも、なかなか読み応えがあります。
未知の研究や学ぶ楽しさ=知識欲を、ここまで読みやすく漫画化した作品とは、なかなか出会えないもの。それがニッチで専門的、地味な題材であればあるほど、意外性というプラス要素も加味されるわけで。
「パニング皿、ハンマー、地形図など、専門的なツールを用いた採集シーンも魅力満載。鉱物学を修めた作者の確かな知見に基づく、本格サイエンスアドベンチャー!」との煽り文句に嘘はありません。宝探し的な鉱物採集は、“女子高生探検家”が織りなすアドベンチャー。例え鉱物に疎くても、道具や地形・古地図などマニアックな内容に冒険心を揺さぶられますよ。
ただ、あまりに楽しそうな彼女たちの姿には、ちょっと違和感も……。筆者は北海道で砂金採掘体験をしたものの、楽しかったのは最初の15分ほどで、その後は苦行が続き……。
それでも、1~2時間で米粒の1/10ほどの砂金を数粒ゲットした喜びは忘れられず、あの嬉しさが本作の原点なのかなと。読めば鉱物採集に出かけてみたくなる、そんな作品かもしれませんね。