母娘ふたり旅のリアルな珍道中に背中を押される『母といろんなところにいってきました』

当ページのリンクには広告が含まれています
『母といろんなところにいってきました』(さとうみゆき/彩図社)

『旅の手帖』(交通新聞社)などで活躍するイラストレーター・さとうみゆきが、母娘ふたり旅の珍道中を全ページオールカラーでユーモラスに綴ったコミックエッセイ『母といろんなところにいってきました』。東京都浅草や神奈川県横浜・鎌倉を巡る“プチ旅行”から、岩手県花巻温泉での湯治体験、埼玉県秩父のパワースポット巡りや母のルーツを巡る北海道旅、果ては台湾、ハワイまで……。すべてが「完璧」ではないリアルな母娘ふたり旅に触れ、かつて自身も母と海外旅行に行ったときの思い出がよみがえってきた。

著:さとうみゆき
¥842 (2024/12/17 19:55時点 | Amazon調べ)
目次

学生時代の貧乏旅行とは違う、高齢の母とのふたり旅

本書の前書きによれば、著者が母娘ふたり旅を始めたきっかけは、著者の父が亡くなったことから。老後、父と母がふたりであちこち旅行をしようと楽しみにしていたことを知り、「なにひとつ父に親孝行できなかったかわりに、母にいろんな景色を見せてあげたいと思った」そうだ。当時60代後半だった母と3泊4日の台湾ツアーに参加した際、まだまだ元気だと思っていた母が、「気遣ってあげるべき年代になっていたことに気付かされた」ことから、なるべく負担がかからず、自分たちのペースで楽しめる旅を計画するようになり、母と旅するなかで素直に感じたことやその時々の様子をコミックエッセイとして記録しているというわけだ。

学生時代の友だち同士の貧乏旅行とは訳が違い、それなりにお金もかかっているであろうことが予想されるが、経験を積み、旅先で無理をして体調を崩してしまったら元も子もなくなることが身に染みているからこそ、「ツアーを利用するときは歩きが少ないものを選ぶ」「近場でもなるべく1泊する」など、いまの自分に合わせたちょうどよい旅のプランが紹介されており、「自分も出来るうちに親孝行しないとな……」という気持ちが湧き上がる。

思えば筆者も、20代半ば頃に母とふたりで海外旅行に出かけたことがある。1週間ほどのツアーだったと記憶しているが、それこそまだ50代半ばで気力も体力も十分あったはずの母が、言葉が通じない海外では「自分でなんとかしよう」という気持ちがなくなるのか、何をするにも完全にこちらに頼り切ってくることに、ショックを受けたものだった。楽しいはずの旅行が、疲れや予期せぬトラブルに見舞われギクシャクし始めて、帰国する頃にはストレスを抱える羽目になる。同じ経験をしたことがある人は、きっと少なくないはずだ。

屋形船から満開の桜を見るはずが……トホホな顛末も赤裸々に記録 

本書においても、「せっかく行くなら満開に近い状態の桜を見せてあげたい」と、桜の開花予想を頼りに屋形船からお花見ができる「はとバスツアー」を予約したものの、当日は天気予報が外れてあいにくの雨模様……。東京都内でも有数の桜の名所・千鳥ヶ淵に着くころにはザーザー降りで、お花見どころではなくなるというトホホな顛末も赤裸々に記録されている。でも、単なる綺麗ごとだけではなく、「現実はこうでした……」という面や、それによって気付いたことなどもリアルに描いてあるからこそ、読んでいるこちらもしっかり心の準備ができるという利点もある。

なかでももっとも筆者の心に響いたのは、本書のあとがきの冒頭に登場する「とある旅先で女性にかけられた」という、温かくも切なさが滲んだこのひと言だった。

「お母さんと旅行ができて、あなた幸せね。どんなにしたくても私にはもう叶わないもの」

そんな言葉をかけられた著者は、「最初は親孝行のつもりで始めた母とのふたり旅だけど、幸せな経験をさせてもらっているのは私の方なんだ」と気づかされたという。たとえ旅先でくだらない親子喧嘩が起きようとも、良かれと思って企画したのに、期待したほど相手に喜んでもらえなかったとしても、「思い出はいましか作れない」と考えれば、それはかけがえのない時間になる。いろんな事情で現実には旅に出られなくとも、Googleマップで一緒に「妄想旅」をするくらいならきっと誰にでもできるはず。「やれるだけのことはやれたかな……」と、自分を納得させるためには、いまの自分が出来る範囲のことを精一杯やるしかない。「自己満足だとしても、やらないよりはマシだ」と、ちょっと背中を押された気がした。

著:さとうみゆき
¥842 (2024/12/17 19:55時点 | Amazon調べ)

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

目次