話題の『マイ・ブロークン・マリコ』が放つ、とんでもない破壊力とは?

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マイ・ブロークン・マリコ
『マイ・ブロークン・マリコ』平庫ワカ/KADOKAWA

※ネタバレあり

WEBサイト「COMIC BRIDGE online」で連載開始された直後から、その類まれなる表現力と疾走感が話題を呼び、1話公開されるたびTwitterでトレンド入りするほど注目を集めた『マイ・ブロークン・マリコ』。新人作家の単行本デビュー作が、ここまで熱狂的に迎えられるのも珍しい。だがその本を手に取り数ぺージめくっただけで、きっと誰もがすぐさまその理由を想い知らされる。本編の1コマ目からして、破壊力に満ち溢れているからだ。

物語の主人公は、うだつの上がらないガサツなOLのシイノ。ある日、外回りの営業中に立ち寄った定食屋でラーメンをすすっていると、「28日未明、東京都中野区在住の26歳の女性が自宅マンション4階のベランダから転落し、亡くなっているのが近隣の住民によって発見されました。当時女性は大量の睡眠薬を服用しており……」というニュースが流れてくる。亡くなった女性の名前はイカガワマリコ。つい先週も遊んだばかりの、シイノの親友だった……。

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自殺した親友の遺骨を奪い、約束の海を目指すが、事態は思わぬ展開へ……

「なぜマリコはあたしを置いて勝手に死んだのか」。「今でも自分がマリコにしてあげられることはないのか」。失意の底で思いを巡らせたシイノは、包丁を片手にマリコの実家に乗り込み、遺骨を奪って逃げるという突拍子もない行動に出る。というのもマリコは10代の頃から実の父親に性的虐待を受けており、何度も自傷行為を繰り返していたことをシイノは知っていたからだ。そして彼女は「いつかシイちゃんと海に行きたい」と願ったマリコとの約束を果たすかのように、学生時代にもらって大切にしまってあった沢山の手紙と遺骨を抱え、ボロボロのドクターマーチンを履いて、たった一人「まりがおか岬」を目指すのだ。

旅先の牛丼屋のカウンターの上に遺骨をドカッとおいたまま、シイノはマリコの分と合わせて牛丼を2杯注文し、あっという間に一人でガツガツと平らげる。その後ひったくりに全財産の入った荷物を奪われてボロボロになるも、親切な釣り人に助けられ、結果的にはさらに別の少女をシイノが救う……という、ハードボイルドな展開に巻き込まれていく。

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回想の中に現れる「ぶっ壊れたマリコ」が放つ、無邪気な暴力性

すでに死んでしまったマリコは、シイノの途切れ途切れの回想の中にしか登場しないにも関わらず、強烈な存在感をもって読者のまえに迫ってくる。マリコに暴力をふるうDV彼氏の家に乗りこみ、シイノがフライパンでぶん殴っても、自己肯定感の低いマリコは気付くと父親や彼氏の元へと吸い寄せられてしまい、挙句の果てにシイノに向かって「そーだよ。わたしぶっ壊れてるの」と平然と言ってのけるのだ。

手紙も遺さず逝ってしまった親友の遺骨を前に「あんたにはあたしがいたでしょーが!」といくら慟哭しても、残酷なまでに現実は何一つ変わらない。だが、もう誰からも傷つけられずにすむ彼女とともに、同じ景色を見て、同じ風に吹かれたという事実は、マリコのいない世界を生き続けなければならないシイノにとって、きっと大いなる支えになるはずだ。

ボロボロになって帰宅したシイノを待ち受けていたものとは……?

親友を自殺から守れなかったという絶望感と無力感に苛まれ続けるシイノを救ったのは、ほかでもない、マリコと過ごしたかけがえのない日々だった。旅を終え、家に戻ったシイノが目にしたものとは、いったい何だったのか……。怒涛のストーリーテリングで読み手を引きずり込んでおきながら、決して「死の真相」を見せものにはしない作り手の強い意志を感じさせるエンディングにこそ、本作が熱狂的に支持される秘密があるに違いない。

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出演:永野芽郁, 奈緒, 窪田正孝, 尾美としのり, 吉田羊 脚本:タナダユキ 監督:タナダユキ
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映画『マイ・ブロークン・マリコ』予告編

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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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