閉鎖的な村で、愛する家族を守るため孤軍奮闘する男の勇姿——『ガンニバル』

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ガンニバル
『ガンニバル』二宮正明/日本文芸社

※ややネタバレあり

目次

人里離れた日本の“村”に残るサスペンスに背筋が凍る

訪れた者には表層的な面しか見えず、長年住んで初めてその実態が分かる日本の“村”。古くより伝わる伝統や行事を重んじる場所も多く、独自のルールや習慣を持つことも少なくない。都市部に暮らす私達がその真実を知ることは難しく、そんな村では今なお私達の知らない「何か」が行われているのかもしれない……。

『ガンニバル』は、幻怪な村を舞台に、突然村の一員となった主人公が真実を求めて戦う、手に汗握るサスペンス漫画である。

物語は、山間部にある供花(くげ)村に、主人公・阿川大悟が駐在として家族を連れて越してくる事から始まる。村人に暖かく迎え入れられ、平和に過ごす日々。

しかし、ある日無残な姿となった老婆の遺体が発見されたことで、その日常は徐々に崩れ始める。腕に残る人間に噛まれたような痕、失踪した前任の駐在・狩野の残した「供花村の人達は人を喰ってた」という言葉……。村人の異様な様子や狩野の娘・すみれとの出会いによって、阿川は「この村の人間は人を喰ってる」という疑念に囚われるようになる。

著:二宮正明
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好奇心を刺激する禁断のテーマとスリリングな展開

愛する家族とこの村で生きていくため、独自に調査を始める阿川。

村の実権を握る後藤家を調べたことで、村人から排除の空気を感じ始める。

閉鎖的な村で、一人戦う恐怖。

躍動感溢れる太い線描き、不安感や緊迫感を煽るコマ割り、次々と変わる人間味豊かな表情の描写は特に秀逸だ。さらに、人間の怖さを浮き彫りにする静かで陰鬱な表現や、リアリティのあるグロテスクな描写が読者を独自の世界観へと誘い、阿川の日常を追体験させる。顔を喰われた被害者の出現、食人文化を追う記者の登場、攫われた母親の証言などにより、阿川の疑念は真実味を増していく。

家族を村から逃した阿川は、警察を巻き込み、ついに後藤家との直接対決へ。全てを掛けた死闘が始まる。この作品では、外部者として真実を求める阿川の姿だけでなく、内部者たちの死闘に至るまでのストーリーや葛藤も丁寧に描かれている。選択の余地なく伝統を押し付けられる後藤家の次期当主候補、後藤家だけが人間であると信じて疑わない後藤家の人々、独自の文化に翻弄され続ける村人など、各々の現実が描かれ、あらゆる視点から多角的に“村サスペンス”が楽しめる。阿川はじめ警察隊と後藤家の戦いは、果たしてどのような結末を迎えるのか。

本作は、食人という禁断かつ非日常的なテーマを扱っているが、都市伝説に触れた時のような、日本のどこかで実際に行われているかもしれないという湧き上がる好奇心を刺激してやまない独特な作品である。

この作品でしか味わえない感情がある、唯一無二の漫画

『ガンニバル』は、非常に個性的で、実に日本的とも言える魅力的な作品だ。『週刊漫画ゴラク』にて連載中で、既刊8巻。次巻となる9巻は、2021年1月9日発売予定。

現代のニュースでも稀に聞く、「村八分」などという言葉。閉鎖的な村では、時代が進んでも、なかなかその文化が変わることはない。

果たして、この物語はただの物語なのか。似たような事は今もどこかで…。

好奇心を揺さぶり続ける斬新な作品を、ぜひ体験してほしい。

著:二宮正明
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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