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“究極の引き籠り術”を脅かす影……コロナ禍に描かれる社会病理とは『NEETING LIFE ニーティング・ライフ』

『NEETING LIFE ニーティング・ライフ』(筒井哲也/集英社)

いつか“脱出”するその日まで……理想の生活「ニーティング」の始まり

「今後の予定(アテ)は何かあるのか?」「あっはい、ニーティングを始めようかと」。パンデミック、クラスター、ロックダウン……世間では聞き慣れない単語が飛び交い、常識が大きく変わり始めていた。45歳のしがないサラリーマン・小森建太郎は、そんな機に新しい生活を始めることを決意。コツコツと貯め続けた貯金と早期退職した退職金を元手に、自身の中で長年思い描いてきた理想の生活スタイル「ニーティング」へと移行したのだ。

彼の言う「ニーティング」とは、ゴミ捨てと生活物資の入手をすべて在宅で賄える古アパート内で引きこもり、インドアな娯楽にふけりながら「負の感情に心を乱されることのない穏やかな毎日」を繰り返すもの。気質が内向きでこもり続けるストレスとも無縁な建太郎は、この生活にすぐ順応する。いつか踏み台やロープが入った“緊急脱出セット”を手に取るその日まで、室内にテントが張られた“偉大なる宮殿”は安泰かと思われたが……。

『予告犯』や『ノイズ【noise】』の筒井哲也が描く新たな社会病理とは

「ネットショッピング」に「フードデリバリーサービス」、「ビデオ・オン・デマンド」などなど……。いずれもコロナ禍で利用者の増加が聞かれ、在宅で社会生活を成り立たせることにひと役買ったものだ。多かれ少なかれそれらの恩恵にあずかりつつ、外出自粛の憂き目にあうことを強いられた共通体験を持つ現代人だが、むしろそんな“引きこもり生活”が逆に肌身に合ったという声も少なからず聞かれたのは否定できない。

『NEETING LIFE ニーティング・ライフ』は、そんなイマ時の“引きこもり生活”……言うところの「ニーティング」によって、極めて現代的な世間断ちを果たそうとする中年男性が主人公の作品だ。表紙だけなら『1日外出録ハンチョウ』(協力:福本伸行、原作:萩原天晴、漫画:上原求・新井和也/講談社)的な、中年男性が制約の中で日々に小さな楽しみを見出す路線も想像できるのだが、なにせ作者は筒井哲也だ。現代のテロを描く『予告犯』(集英社)や村社会に“異物”が混じる『ノイズ【noise】』(集英社)など、社会病理を題材としたサスペンスに定評のある作者だけに、物語には幕開けから不穏な空気が忍び込む。

第1話で描かれる、「ニーティング」に至るまでの過程とその生活模様には穏やかさも漂うが、建太郎は勤め上げた末の悠々自適なリタイアとして「ニーティング」を選んだわけではない。(仔細は本編に譲るが)勤めていたブラック企業から脱出し、以降そのような“世間”一切との縁を断ちたいがための「ニーティング」なのだ。彼の社会人時代の回想はあまりに痛々しく、職場の人間を指しての「言葉は通じるのに、決して通い合うことができない」という言葉が重く響く読者は少なくないだろう。本作の社会病理はここにあるのだ。

“得体の知れない来訪者の存在”と“隣人の出現”……どうなるニーティング

第1巻そんな建太郎の「ニーティング」が、“得体の知れない来訪者の存在”と“隣人の出現”というふたつの異変によりさっそく予定通りといかなくなることで、本作の物語は進んでいく。“得体の知れない来訪者”に対する建太郎の動きでサスペンス要素が色濃くなる一方、“隣人”は何をもたらすのか、なかなか読めない。上巻は、かつて漫画家を目指していたという建太郎が自伝的な漫画を描き始めるシーンで幕を閉じるが、はたしてこの先はどのような展開が待ち受けるのか。コロナ禍を生きる我々が主人公ともとれる、筒井サスペンスの新作を心ゆくまで堪能したい。

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