条件付きで未来にタイムリープ
タイムリープを扱った作品は数多くあるが、そもそもタイムリープとは何だろうか。日本語に直訳すると「時間跳躍」。和製英語であり、一般的には、タイムリープする人の「意識だけ」が時間を移動し、過去や未来に存在しているその人自身の体に意識が乗り移る現象を指す。本サイトでも取り上げたことがある『東京卍リベンジャーズ』(和久井健/講談社)などは、まさにこのタイムリープに該当する。
似たような言葉に、「タイムスリップ」や「タイムトラベル」、「タイムワープ」などがあり、それぞれ細かなニュアンスの違いや作品ごとの解釈の差が存在。本題からずれてしまうので今回は割愛するが、誤解を恐れずに言うと、時間を移動するのが体ごとか、意識だけかという分類がひとつ挙げられる。
本作は区分けでいくとタイムリープもので、登場人物は未来に行って戻ってこられるとだけ聞くと、実にオーソドックスだ。ところが、行き先はその時点から20年以内の「未来の1日」という“縛り”が存在する。さらに訪れた時間で見た未来について、その未来を“確定”するかしないかは、その人次第になっているというアイデアが興味深く、作品に奥行きを出しているのだ。
未来で見た出来事をあったことにするか、なかったことにするかは自分次第
本作では、仮に目撃した未来が不本意であれば確定させずに元の時間へ戻り、その後該当する未来の時間が訪れた際にやり直すことも可能だ。つまり、うまくいけば未来を良い方向に変化させることもできる。
だが、当然ながら“リスク”も存在する。タイムリープしている間は未来の自分と目が合ってはならず、未来のものを持ち帰ってくることもNGとなっている。そして、仮に未来を確定させて戻ってきたとしても、その“結末”は該当する未来が訪れてみないと希望に合うものかどうかは判断できない。シンプルだが、さまざまな可能性とバリエーションが考えられるだけに、ついつい「自分だったらこの条件をどう思うか?」と想像を膨らませてしまう。
ちなみに、未来を確定するか否かを決められなかった場合は、タイムリープしてから24時間後に自分がいた元の時間に帰還し、未来は未確定になる。もちろん未確定の未来は変わる可能性を含むので、未来で目撃してきたことが将来的に役立つかも不明だ。細部にまで行き届いた気づかいが巧妙で、どこまでも好奇心をそそる設定といえるだろう。
事情を抱えたキャラクターと巧みな仕掛けで訴えかけてくる
本作は、そんなタイムリープをさせてくれる店『空日屋(うつひろや)』と出会った人々が、それぞれ自身の未来を目にしたことで決断を迫られる姿が、オムニバス形式のストーリーで紡がれていく。
設定として面白いのは、そもそもこのようなタイムリープの背景には、未来を変えるため過去にさかのぼり改変する人間が増えたため、未来の流動性を正そうと……という事態から、本作で描かれている「未来の1日にタイムリープ」が始まったというのは、何とも逆説的なシニカルさが漂う。
オムニバスなので、各エピソードのキャラクターたちが、それぞれの事情で未来を変えようとタイムリープに挑むのだが、ストーリー構成にもひねりを効かせて楽しませてくれる。例えば最初のエピソードでは、最初に妻、その後に夫がタイムリープ。結果的には夫婦2人が共に相手に知らせず未来を見に行くという仕掛けが施され、読み始めからいきなりクライマックスかのようなテイストでグイグイ引っ張ってくれる。年齢も性別も異なり、目的も異なる登場人物たちがタイムリープするので、どのエピソードも色が変わり、設定の妙だけではない趣があるのも素敵だ。
タイムリープもの、しかも1日だけ見に行くという要素があるため、自然とどの未来を見に行くかに興味がいってしまいがちだが、実は現在のどの時点からタイムリープするかもかなり重要なポイント。確定判断との組み合わせで、どこまでも深みが増す作風は素晴らしい。全3巻だが、ほかのエピソードも読みたくなってしまう。