タイムリープサスペンスの新たなる可能性を示し“名作”誕生の予感も! 感情をリアルに描く作風が読み応えを際立たせる――『めぐる未来』

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『めぐる未来』(辻やもり/芳文社)
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タイムリープを“病気”とした設定が斬新

タイムリープでやり直し。さまざまなメディアやジャンルで扱われてきたテーマのひとつで、個人的にはタイムリープを軸に据えた作品は嫌いじゃない。むしろかなりタイプである方なのだが、タイムリープものの楽しみ方として、どのようにしてタイムリープが発動するかにも注目している。

発動条件は、例えば特定の時間だったり何かしらの出来事やアイテムだったり、さらにはキャラクターが能力として有しているケースなども考えられる。ところが『めぐる未来』におけるタイムリープは、その能力を使える本人自身が望まない“病気”として存在することが興味深い。

人により捉えた方に多少の差はあるだろうが、タイムリープ能力が現実で使えたら……と夢想してしまうことはないだろうか。たしかにタイムリープが使うことができるなら、誰かを救うことができるかもしれないし、はたまた自身の未来を変えることもできるかもしれない。そんな憧れのような能力を、主人公自ら「呪いのような病」と呼ぶ。何ともいえない皮肉の利いた、それでいてどこか納得してしまうような設定は秀逸だ。

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発動条件は「感情の起伏」&能力の遺伝要素など練りこまれた設定が◎

本作の主人公はデザイナー兼イラストレーターである29歳の青年・未来。5歳年上の妻・めぐるとの他愛ない日常シーンが描かれつつ物語は幕を開けるのだが、彼は感情の起伏が激しくなることでタイムリープ能力が“発症”するという秘密を抱えており、その“病気”は子供にも遺伝してしまう。感情がトリガーであることもそうだが、能力がネガティブなものとして描かれているのが新鮮だ。

そして未来がタイムリープ能力を持っているからこそ、第1巻冒頭で14歳の未来が建物から落下した男性を目撃した際、「助けたい」と思えた描写につながり理解することが可能に。現実にそんな場面に出くわしたとしたら、同じように思う人もいるかもしれないが、きっとパニックになって右往左往し記憶も感情も曖昧になるのではないだろうか。未来が助けたいと純粋に思えるのは、自身がタイムリープできるからだと想像できる。この彼のキャラクター性と感情がストーリーと絶妙に絡み合っていくのだが、こういった見せ方はなかなか味わい深い。

主人公の人間性やテンポ良いストーリーが緊迫感と高揚感を演出

主人公の人となり、妻との何気ない日常を描いていたかと思いきや、第1話終盤で突如としてめぐるが遺体で発見されることに。事件が事故か原因が不明だが、未来はふと数日前にかかってきた電話を思い出して感情が高ぶりはじめ、ついにはタイムリープが“発症”してしまう。その刹那、未来はめぐるの死の真相を追究し、彼女を助けようと堅く心に誓い、あがくことになっていくのだ。

真相追究&救出という幹と併せ、タイムリープ関連のバックボーンや未来の人間性について丁寧に描写されており、ストーリー展開に深みと味わいが生まれているのは間違いないだろう。また、あえて“病気”と設定していることも、今後何らかの形で絡んでくるのではなど、さまざまな想像をめぐらせることができて面白い。テンポ感ある進行具合も、どんどん先が読みたくなる。

作品タイトルが『めぐる未来』で、主人公の名が“未来”で助けたい人物の名が“めぐる”。これが意味するものは何なのか。なぜめぐるは死ななければならなかったのか。そして未来のタイムリープとは一体何なのか。過去を変えることができるのか。そして、もし、めぐるを救出できる時間軸がやってきたら、未来の“未来”はどうなるのか。興味は尽きない。

2022年8月に発売された第2巻でも怒濤の勢いで魅せてくれる本作は、謎に満ちつつも新たな展開へと突入。サスペンスとタイムリープの組み合わせによる新たな可能性を感じてみてはいかがだろうか。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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