『遥かなるマナーバトル』世界を変えるべく、“マナー”の戦いへ……「謎マナー」や「マナーマウント」を笑う異色作

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『遥かなるマナーバトル』(たむらゲン/小学館)
目次

マナーに礼儀……「見えない法に支配されたディストピア」を変える戦いの幕開け

「名刺を受け取る際、相手の名前と指が重なるのは…マナー違反ですよ」

「しまっ…」

気付いた時にはもう遅い。1級マナー講師・光上光子からのマナー違反の指摘を受け、“礼儀者”の高校生・笹木真那の全身を(比喩ではなく、文字通りの)電流が駆け抜けていく……。

時は遡って一年前。ささやかなマナー違反から仕事で失敗し、自死を選んだ父の葬儀の場に真那はいた。斎場ですら、細かいマナーや礼儀を確認し合う声が聞こえてくる。辟易していた真那だったが、そこにふらりと現れたヤクザの叔父・政義が、吸いかけのタバコを手向け立ち去っていく姿に衝撃を受けた。マナー違反も甚だしいはずなのに、その破天荒な所作が美しく見えたのだ。真那は「人の殺し方を教えてくれませんか!!」と政義を呼び止める。

マナーに殺されたも同然の父の仇を、と前のめりの真那に、政義は「世界を変えろ」と説いた。復讐すべきは、マナーという見えない法に支配されたディストピアであるこの世、つまり社会システムそのものだというのだ。世界を変えるには、他人から認められる必要がある。手っ取り早く他人から認められるには、権威を手に入れるべきだ。そしてそれは、多くの人間が「講師が言うから正しいマナーなのだろう」と思うマナーも同様である……。

こうして、政義のもとでマナー講師を目指すことになった真那は、世界最強のマナー講師を決める「マナーバトル」で優勝し、その一挙一動が世界のマナー……世界の法則とされる存在となることを目標に定めた。そして現在。“礼儀者”となった真那の初試合の相手として、これまで自分も読み、“父を殺した”マナー教本の著者でもある光上が立ちはだかる。

著:たむらゲン
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「誰が考えた?本当に必要?」なマナーが題材に――“真面目にギャグをやる”バトルマンガ

「名前かプロフに子どもの月齢&性別を書くべし」「先輩は積極的にフォローすべし。先輩から後輩をフォローすることはできないため」「旦那自慢もデパコス(デパートコスメの略。高級ブランドのコスメのこと)自慢もやめるべし」。……いきなり何が何だか、という書き出しだが、2023年9月にX(旧Twitter)で話題となった、“ママ垢(ママアカウント)”界隈における「マナー」である。投稿者は子を持つ女性と明示していることから、界隈から勝手に“ママ垢”と目され、一方的にこれらを押し付けられているらしい。

これはさすがに極端な一例かと思われるが、誰が言い出したのかも分からない、必要性もあまり感じられないような「マナー」に遭遇した経験は、誰しも一度や二度ではないだろう。先述の事例はSNS上での、匿名の第三者からの言いがかりとも取れる内容の「マナー」だけに投稿者はあっけらかんとしていたが、学校や会社、冠婚葬祭など一般社会における「マナー」はなかなかそうもいかない。その場では暗黙の了解に従うほかないものの、後からなんとなく首を傾げてしまう「マナー」に、思い当たる節がある人は多いはずだ。『遥かなるマナーバトル』はそんな、いわゆる「謎マナー」や「マナーによるマウント」を題材として、“礼儀者”の主人公たちがマナーを武器に戦いを繰り広げるギャグマンガである。

肉親を失った主人公の復讐心から始まる物語だけに、あらすじを見ただけだと「ギャグマンガ? シリアスな内容なのでは?」と思われるかもしれない。だが読み進めると、全くそんなことはないことに気が付く。冒頭の名刺のくだりは「わざと名前を大きく印刷することでマナー違反を誘発する」光上の“戦闘用名刺”がもたらしたものだと明かされるのだ。ここで笑った人なら、きっと本作が描きたいところに気付けるだろう。

そう、本作は世間の「謎マナー」や「マナーによるマウント」に対する風刺を適宜織り込みつつ、“真面目にギャグをやる”バトルマンガなのだ。

真那たち“礼儀者”がマナー違反を指摘されると、文字通り「身体に電撃が走る」のも、そんな“真面目にギャグをやる”作風に拍車をかける。“礼儀者”はマナーバトルの際、マナー違反を感知し電撃を流す「マナー感知リング」なるものを付ける、という設定があるのだ。“礼儀者”という肩書きと、ダメージを実際に体感させるアイテムの存在、そして何より「してやったり」の応酬が続くマナーバトルという戦いに、どことなく『遊☆戯☆王』(高橋和希/集英社)的な面白さを感じてしまうのは、きっと筆者だけではあるまい。

また他作品を意識するといえば、作中における「マナー」の解説・権威付けのために登場する、架空の書籍を手掛ける架空の出版社「陰陽社」もそれだろう。同様の手法の先達である、『魁!!男塾』(宮下あきら/集英社)の「民明書房」を連想して笑ってしまうのだ。『遊☆戯☆王』的なバトル、『魁!!男塾』的な理屈付けが好きな人なら、きっとツボにはまるはずだ。

“やってることはギャグ”の一方で熱い展開も……出オチと決めつけるのは“マナー違反”

“真面目にギャグをやる”さまが面白い! という紹介になったが、真那が世界を変えるべく「マナーバトル」での優勝を目指す、という物語の本筋そのものも面白いことは忘れずに付記しておきたい。早々から「礼皇」なるラスボスと思しき存在が示唆されたり、戦いを経て“礼儀者”たちの人間ドラマを垣間見ることができたりと、王道的なバトルマンガとしても熱い展開が目白押しなのだ。“出オチと決めつけるのはマナー違反”と薦めたい一作だ。

著:たむらゲン
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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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