入れ替わった2人のマンガ家によるバトルが勃発!
マンガ家がマンガ家を主人公に据えたり、マンガそのものを描いたりする「マンガ家マンガ」。令和の時代に颯爽と登場した『龍とカメレオン』もまたマンガ家を描いた作品で、名作への飛躍を予感させる雰囲気を放っている。実際「次にくるマンガ大賞 2023」のコミックス部門でU-NEXT賞に輝くなど、ネクストブレイクの気配を漂わせる。
本作は、新人マンガ家の深山忍(みやま・しのぶ)が、累計発行部数1億5千万部超えの大人気マンガ『ドラゴン・ランド』の作者である花神臥龍(はながみ・がりょう)に挑戦していく……というストーリー。
一見すると正統派な印象を抱くかもしれない。ただし、深山の成長を素直に描いていく物語ではない。実は深山と花神は、事故をきっかけに身体が入れ替わっていたのだ。単純な対決のはずが一気に複雑化していく構図は、今作の面白みに深みを演出。花神が心からマンガを愛し常に全力でマンガと向き合う天才マンガ家なのに対し、深山は他人の絵柄を完全コピーできる特技を持ち、「カメレオン」とあだ名されるマンガ家といった対比も、効果的なアクセントになっている。
「マンガ家マンガ」の歴史は長けれど新たな仕掛けが満載
「マンガ家マンガ」といえば、古くは藤子不二雄A氏の『まんが道』(小学館)のヒットを機に、さまざまな作品が登場。その多くはマンガ業界を題材にしつつも、パロディ要素を取り入れフィクション的に描かれる作品が主流だった。その系譜を受け継ぎつつ、「マンガ家マンガ」のある種のターニングポイントとなったであろう作品として、『DEATH NOTE』(集英社)を手がけた大場つぐみ(原作)&小畑健(漫画)コンビによる『バクマン。』(集英社)が挙げられる。
『バクマン。』は当時、マンガ業界やマンガ家という職業がより身近で一般的になった時代感にマッチし、スポーツマンガのように、マンガを描くことやマンガ家を目指す道のりを友情や恋、ライバルとの切磋琢磨を取り入れた作風が新鮮で、新たな「マンガ家マンガ」の潮流が生まれたと提言しても言いすぎではないだろう。
『バクマン。』以降、「マンガ家マンガ」も多くのジャンルが誕生。プロのマンガ家を目指す主人公の奮闘を描いた『RiN』(ハロルド作石/講談社)やマンガ家志望のモデルが主人公の『モテかわ★ハピネス』(青木光恵/祥伝社)、『1・2の三四郎』などで知られる小林まことが当時を回顧した『青春少年マガジン1978~1983』(ともに講談社)など、王道から変化球まで実に多彩だ。
そうした中で『龍とカメレオン』は“入れ替わり”という素材を「マンガ家マンガ」に投入。入れ替わりといえば『ミリオンジョー』(原作・十口了至、漫画・市丸いろは/講談社)のような作品もあるが、『龍とカメレオン』では入れ替わる状況や経緯が異なる。
入れ替わり前、新人だった元の深山は「天才」を憎んでおり、入れ替わりを知った後は元に戻ることを拒否。人気マンガ家・花神として生きようとする。深山となった花神も、次第に自分の最高傑作に挑戦できることに意欲を燃やすように。その過程で違う才能を持つ両者が各々のやり方で“進化”するなど、「マンガ家マンガ」と入れ替わりを巧みに組み合わせたテイストには、純粋に興味を引かれてしまう。
マンガ家バトルをダイナミックに魅せる描写が痛快
本作の醍醐味は絶妙なひねりを加えた花神VS深山の対決だけではない。深山と入れ替わった花神が深山の外見で担当編集・多知川を訪ね、自分が花神であることを示すためネームを読ませる場面がある。紙から飛翔する龍を筆頭に、クリエイティブの高さを示す描写からは勢いと熱量があふれ、切れ味も抜群で◎。実際のそのネームを読んでみたくなる。
花神がマンガを描く場面や完成した作品を龍でイメージさせる手法は、派手に見せるのが難しいだろうマンガを描くという作業に見事なまでのダイナミックさを与え、他キャラクターのそれも含め、作品からパッション&エネルギーを放つのにひと役買っている。読んでいて爽快感を覚えるのもうなずける。第2巻から始まる「連載獲得合宿」でも、ライバルたちとの対決をスピード感ある表現とビジュアルで魅せてくれるのが心地いい。
「マンガ家マンガ」でありながら描き方の妙もあり、王道のバトルものの醍醐味も内包。それでいてライバルとの熱い戦いや魂の交流、現実のマンガ業界をモデルにしたリアリティあるエピソードなど、どの角度からも楽しめてしまうのが本作の良さだ。作中でも表現されているが、カメレオンは“変色竜”とも呼ばれる。異なる才能と価値観を持つふたりが、今後どのような物語を紡いでいくのだろうか。
ひと癖ある設定の根底には熱くて真っ直ぐな軸がある。2023年12月には第3巻が発売予定。「マンガ家マンガ」の新たなブレイクスルーを起こす可能性妙を秘めた本作に注目してみてほしい。
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