何をされても変わらない、どこまでいってもスタイリッシュな男・坂本
人生は出会いによって左右される。良き出会いは人を変える。その出会いは双方に素晴らしい影響を与えてくれる。そして、人生は自分次第で変わる。それを痛感させてくれる、腹の底から笑える名作ギャグ漫画がある。
『坂本ですが?』は、一挙手一投足がどこまでもスタイリッシュな男・坂本の学園生活を描いた、笑って笑って少し泣ける斬新な漫画である。
あまりのクールぶりに不良グループから目を付けられ、日々嫌がらせを受ける坂本。だが、坂本は何をされても物ともせず、ひたすらにスタイリッシュ&クールな挙動を貫き通す。いつだって他人を悪者にせず、誰を傷付けることもない。クラスメイトの久保田をいじめから救った際は、ただ単に手を貸すことはせず、久保田自身に現状を打破させた。何をしてもスタイリッシュで在り続ける坂本に、クラスメイトや不良グループ、更には街の人々までもが心奪われ、変わっていく。やがて多くの人々との間に熱い友情が生まれ、彼らにとって坂本は欠かせない存在となる――。
オチまで大変秀逸なので、最後までまるっと堪能できること必至だ。 坂本の魅力は、肉体的にも身体的にも、決して誰も傷付けない点にある。理科準備室に坂本を呼び出したクラスメイトらが煙草の不始末により火事を起こしかけた際は自らが責任をかぶり、親友である久保田の母親に好意を寄せられた際は自ずと諦めるように仕向けた。坂本の上品かつ洗練された言葉選びと行動は常に読者の斜め上を行くので、もはや感心する他ない。
スタイリッシュというアイデンティティが周囲を、自分を良い方向に変えていく
坂本は人の想いを大切にしてくれる。どんな告白もしっかりと受け止め、相手に合った方法で応えてくれる。先輩に操られて文化祭の展示を台無しにした生徒からすら本当の想いを引き出し、悪者にすることはなかった。
こんな人間が実在したら、誰しもが惚れてしまうのではないだろうか。高校生にしてこの完成された人間性。多感な青春時代にこのような出来た人間に出会えていたら、そう思わずにはいられない。
坂本はどんな嫌がらせも困難も日常の一コマに変えてしまう。トイレの個室で上から水をかけられても、用意した傘を差す彼にとっては“にわか雨”。天井の埃さえも、彼をもってすれば“教室に降る雪”。ある出来事をどう捉えるか、それはやはり自分次第なのかもしれない。アイデンティティが確立していれば、どんな困難も意に介さず生きていけるのかもしれない。坂本の並外れたスタイリッシュな生き様を見ると、人生は自分次第だと思えてくる。
坂本があまりに素敵なので多くを語ってしまったが、本作は、頭を空っぽにして読んでもとにかく笑えるので安心してほしい。坂本の突拍子もない滑らかな言動はもちろん、坂本の美しいポーカーフェイス、何より坂本を取り巻く人々の表情が素晴らしい。あらゆるコマに独特の緊張感と躍動感、疾走感があり、心を弾ませながら楽しめる。難しいことは考えず、ただ笑いたい時に読んでみるのも良いだろう。小さな悩みや苦しみが、何だかどうでもいいようなことに思えてしまうはずだ。
坂本のような人間がいれば周りが感化されるのも当然で、不良グループの面々の表情や言動が変わっていく様を観察するのも面白い。また、坂本自身も少なからず影響を受けているので、そのポーカーフェイスが崩れる瞬間にも注目してほしい。出会いは人を変える。良い意味でも、悪い意味でも。それなら自分は坂本のように、良い意味で人を変える人間でありたい。本作を読めば、きっとあなたもそう思えるはず。坂本を真似るのは難しい、あまりに高度なので。それでも、本作にはスタイリッシュな考え方や言動になれるヒントがたくさん詰まっている。明日を少し素敵な一日にするために、ちょっぴりスタイリッシュを目指してみてはいかがだろうか?
フルコース料理の満足感が堪能できる優れたギャグ漫画
『坂本ですが?』は、佐野菜見氏によるスタイリッシュを極めた男・坂本の高校生活を描いた学園ギャグ漫画だ。2012年より「Fellows!」、および後継誌である「ハルタ」にて連載され、完結済み、全4巻。2016年にはテレビアニメ化を果たした。ベテラン人気声優が多く配役されており、非常に完成度の高い作品になっている。気になる人はこちらもチェックを!
本作には、不良グループのリーダーである8823(ハヤブサ)先輩の親子関係や3年生の先輩に唆された不良のクラスメイト・前田との最後の戦い、クラスメイトと坂本の別れなど、思わずホロリと泣ける描写もある。声を上げて笑えるのに、恋すること、出会いの素晴らしさ、毎日を楽しくする生き方まで学ぶことができてしまうフルコースのような内容。
最後まで気軽に読めて、読後感もファンタスティック。何かに悩んでいたり、日々の生活に疲れてしまった人にこそ読んでもらいたい。読めばきっと心が潤い、「お腹いっぱい!」といった充足感が味わえることだろう。