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“芸能界”&サスペンスの融合に心躍る『【推しの子】』 作品タイトルの仕掛けは驚きと共に印象が変化していく

【推しの子】
『【推しの子】』(赤坂アカ・横槍メンゴ/集英社)

画期的アイドルストーリーは設定も展開も斬新

「推し」という言葉がアイドルだけでなく、アイテムや食べ物に至るまであらゆるジャンルで幅広く使われるようになって久しい。もはや日常的な用語として定着したと言えるが、その意味合いを考えると、誰しも1人や2人、または1つや2つといった具合に、推しがあるという人は多いはず。むしろ口にしていないだけで何も推していない人を見つける方が難しいかもしれない。

そんな「推し」というワードがタイトルに入った『【推しの子】』。産婦人科医として働く主人公・ゴローが、自身の推しアイドルである星野アイと出会い……と、一見するとアイドルものに思うかもしれないがそうではない。実はアイは妊娠しており、ゴローは彼女の極秘出産に協力することになるのだが、出産間近となったある夜にゴローは刺されてしまい、気づくとアイの子供として転生!!

といった感じで、作品タイトルのダブルミーニングの秀逸さもさることながら、近年主流派の転生要素も入れ込んでいるのが面白い。

ここまでだと転生して推しアイドルと楽しく暮らす物語にも思えてくるが、さらに要素をプラスしてくるのが素敵なポイントの一つ。推しとの暮らしに幸せを感じる日々もつかの間、ゴローを奈落の底に突き落とすようなショッキングな事件が発生。その出来事を踏まえた上で、ゴローが推しの子供として自らの意志で立ち向かっていく流れは、何とも心惹かれる展開だ。しかも、それだけで終わらず、そこに芸能界にまつわるあれこれを盛り込んでくるのも興味深い。

芸能界やエンタメの“舞台裏”を虚実織り交ぜ描く展開に興味津々

第1巻では、いわゆる“プロローグ”的なストーリーにとどまる(それでもかなり引き込まれるしインパクト大)が、2巻以降は通称・アクアこと愛久愛海(あくあまりん、転生したゴロー)と、双子の妹・瑠美衣(るびい、通称・ルビー)の2人が、それぞれ俳優とアイドルとして活動していく姿を、業界の表裏・虚実を入り混ぜて描いていく。ルビーが誰の転生かというのも味付けの一つとなっているのは、言うまでもない。

業界的要素として取り上げられているのが、「アイドルグループ」や「マンガ実写化作品」、「恋愛リアリティショー」のほか、8月18日に発売されたばかりの第5巻では「2.5次元舞台」と、まさに現在のエンターテインメント業界には欠かせないものが並ぶ。

しかも単に主人公らが切磋琢磨する姿が胸アツというだけでなく、例えばマンガ実写化作品では「新人俳優の宣伝が目的」「演技は二の次」「原作者の複雑な心境」、恋愛リアリティショーでは現実でも大きな社会問題にもなった出演者への誹謗中傷など、各ジャンルの繊細な“あれこれ”をフィクション&ノンフィクションの境目を曖昧にしつつも、きっちり正面から描いている点が魅力的。芸能界やエンタメの“舞台裏”をちょっとのぞいてみたい。そんな誘惑に駆られる人もきっと楽しめるはずだ。

それでいて“闇”を見せつけて終了ではなく、携わる人々の各立場からの“想い”も描いているのが素晴らしい。一方からの見え方だけでなく、人や物事はあらゆる角度から見なければならないといった“多様性”にも通じる見せ方は、素直に感心させられる。

キャラクターの中から“推しの子”を見つけるのもあり

本作には、アクアとルビーをはじめ、多くの個性的なキャラクターが登場。作品タイトルのように、その中から“推しの子”を見つけるのもいいかもしれない。

個人的にはアクアとルビーは魅力的かつ、転生元となったキャラクター同士のことも考えるとかなり推したくなるが、ここのところ急上昇中なのが2.5次元舞台俳優の鳴嶋メルト&元・天才子役の有馬かな(通称・重曹)。特に重曹は、「ファーストステージ編」における「アンタの推しの子になってやる」(第4巻収録)という決意のセリフが最高にキュートでカッコよく、一気にハートをつかまれてしまった。

作品タイトル関連の回収エピソードの一つになっているのだが、そこに至るまでのアクアと有馬かなのやり取りを思い起こすと、何とも言えない彼女の想いに胸キュン。ストレート過ぎる気持ちというものは、問答無用で心に訴えかけてくるものだ。

芸能界や演劇を描いたマンガ作品というと、往年の名作『ガラスの仮面』(美内すずえ/白泉社)を筆頭に数多く存在。その中でも本作はアイドル業界の大変さや芸能界での奮闘ぶりを、ポップさとシリアスさをバランス良く散りばめながら描き、小気味よいテンポ感で物語を紡いでいく。そこに“謎”を忍ばせるなど、あの手この手で攻めてくる作風は実に素晴らしい。

先日、「次にくるマンガ大賞2021」でコミックス部門の大賞に輝くなど、注目度は増すばかり。多数の要素を詰め込み、読者に先を読ませない。最近のマンガは先が読めてしまうのが……と思っている人にこそ是非とも本作を読んでみてほしい。世の中に数多くのマンガ作品はあるが、ここまでグイグイ引っ張られる展開は新感覚。これからも本作を推していきたい。

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