「何でも願いが叶う」ようになった世界を舞台に、短編連作・オムニバス形式の面白さを再確認させてくれる『夢見が丘ワンダーランド』 -“想い”と“願い”が詰まったエピソード集は珠玉-

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夢見が丘ワンダーランド
『夢見が丘ワンダーランド』(増田英二/秋田書店)
目次

各エピソードが基本独立したオムニバス形式で描かれる

ある日、自分が住む世界が「何でも願いが叶う」ようになったら、あなたならどうするだろうか。『夢見が丘ワンダーランド』は、そんな“夢”のような状態となった世界で暮らす人々にスポットを当てた、オムニバス形式のマンガ。オムニバスと聞くと、基本的には1話完結でエピソードごとに登場するキャラクターなども異なるため、長編好みの人からするといまいちピンとこない部分もあるかもしれない。

わかりやすくオムニバスの面白さの一端を想像してもらうには、やや違う毛並みではあるし視聴したことがない人には申し訳ないが、イメージ的にはTVドラマ『世にも奇妙な物語』シリーズを思い浮かべてもらうのが、わかりやすいのでは。本作も同様に少しファンタジックな基本設定をベースに、1話完結のストーリーがくり広げられていく。

本作で語られるいずれのエピソードも、願いが叶うために湧き上がってくる夢や欲望といった感情に揺れ動く人々の心理を、実に多彩な角度で表現。表情や手触りの異なるドラマがずらりとそろっているのが良い。

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どのエピソードも高い完成度で、各話の絡みも緩くあるのが◎

オムニバス形式の作品の良さは、各エピソードが独立しており、1話なら1話とある程度決まったところで物語が結末にたどり着くので、テンポの良いストーリーが楽しめること。また、作品にもよるが、どこから読んでもかまわないというのも、既刊が多いほどありがたみを感じられる一面でもあるだろう。各話独立していることから、読み手側がお気に入りのキャラクターやエピソードに出会える可能性が上がっているのもうれしいところだ。

『夢見が丘ワンダーランド』もまた、そうしたオムニバスの基本フォーマットに則って各エピソードが綴られていき、それぞれの物語に笑いや感動が盛り込まれ、どのエピソードも完成度が高いのが素晴らしい。

また、基本的な世界観やタイムラインは共通しているので、各話を読み進めていく中で、次第にそれぞれのエピソードで主人公にあたるキャラクター同士の絡みをチラホラ見せてくるのも、読み手の興味をグッと引きつけてくれる。

連作短編だからこその面白さや楽しみを教えてくれる

本作を手がけるのは『実は私は』(秋田書店)などで知られる増田英二。同作でも他には類を見ないような笑いと感動、さらには考察が楽しめるミステリー要素まで、実に素敵なバランスで楽しませてくれたが、『夢見が丘ワンダーランド』も、そういった意味では期待をまったく裏切らないし、むしろさらに上回るような仕掛けで驚かせてくれる。

あまり多くを語るとネタバレかつ楽しみを奪ってしまうので、フワッとした表現にはなってしまうが、数あるエピソードの中でも特に注目してみてほしいのが3巻に収録されている「ただ一人の君に」。マンガという表現方法でありながら、まるで推理小説を読んでいるような、思いもよらない仕掛けを突き付けてくる。その爆発力は是非とも体感してもらいたい。

そして一見バラバラに見えるエピソード群ではあるものの、次第に“収束”に向けて世界の“全貌”が明らかになっていく展開は、まさに考察好きにはたまらないはず。「何でも願いが叶う」世界は、得てして「理想郷」や「桃源郷」に思えるのだが、あなたにとってはどうだろうか。

『夢見が丘ワンダーランド』の最終巻が2022年2月8日に発売された。作品の住人たちがたどり着いた場所を確認し、その結末を見届けてみてほしい。短編を連作として紡いでいく手法は各話が適度な尺となっているため、訴求点や面白みが凝縮されている気がする。それでいて全編が緩やかにつながり、そのつながりに気づいたとき、別のカタチで魅せてくれるのも素敵だ。短編連作にあまり触れたことがない人は、本作でその快感を知ってみてはいかがだろうか。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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