シリアルキラーを扱った異色作。ひと筋縄ではいかない物語の行末は
大切な人の命が他人に奪われた時、あなたならどうするか。
これは実に難しい問題で、口だけでは何とでも言えるが、実際に経験しない限り分からないものだろう。例えば“復讐”を誓っても、大抵は残りの人生全てを怒りに捧げることなどできない。
『シリアルキラーランド』は、幼い頃に猟奇殺人鬼によって母親を殺害され、自身も消えぬ傷を負った主人公のその後の物語である。
主人公の襟峰想は憎き殺人鬼への恐れから逃れるため、その心理を理解しようと試みる。未知こそ恐怖だ。相手を知れば恐れはなくなるかもしれない。しかし、私たちのように普通に暮らしているだけの市井の人に、果たして「理解」などできるものだろうか。
ニュースや新聞で凶悪事件の犯人の動機を耳にしても、真面目に聞いたところで理解などできない。犯人がシリアルキラーだった場合、彼(女)らの思考回路は、“普通”の人間の思考回路と異なるからだろう。しかし、みな初めは、誰かのお腹から生まれ出た命だった。いったい、分かれ道はどこなのだろう。
主人公・襟峰想は幼い頃、突如家に押し入ってきた男に母親を殺害され、自身も背中に深い傷を負った。母親の首は持ち去られ、未だ見つかっていない。
高校生になった想は、男への恐怖から逃れるため猟奇殺人鬼をテーマに小説を書いている。ある時、想の元へ差出人不明の謎の手紙が届く。封を開けるとおかしな現象に見舞われ、想の人生は一変してしまう。
果たして、殺人鬼を恨む想を待ち受ける運命とは――。
よくある復讐譚かと思いきや、展開は想像を超えてくる
実に興味深いストーリーである。凄惨なシーンに始まり、読み進めていくと突然、想像を超えた展開を見せる。タイトルへの違和感が解消され、購入前に確認できるあらすじとはまるで異なる内容に驚く。展開が早く、次々と新たなことが起こるため先が読めない。2023年2月時点で既刊は2巻、これからが楽しみである。
作画は美しく、自然と目の動くコマ割り、光と陰を巧みに使った描写も秀逸。文字の多さを感じる部分もあるが、表情や動きだけで魅せるシーンとの対比になってあまり気にならない。猟奇シーンは生々しさこそないが、いかんせん表現が達者なため、気になる人は文字だけ追うと良いだろう。
作者の描く陰には闇が潜み、仄暗さが漂っている。
シリアルキラーとは何か。なぜ現れるのか。
常人には到底理解し得ないかもしれない。彼(女)らの多くはサイコパスで、仕事や家庭を持ち、一見すると私たちと何ら変わりない場合もある。彼(女)らは異常な心理的欲求の奴隷であり、それに逆らうことができないのである。
そんな欲求のままに生きる彼(女)らが出会うとどうなるのか。
1巻を読み進めた時の「!?」を読者の皆さんにも味わってもらいたいので、これ以上の言及はやめておこう。これまでの殺人鬼を扱った作品とはひと味違うので、今後もあっという驚きがあるかもしれない。主人公に隠された秘密……、2巻にその片鱗があるので期待大。
本作は「考えさせられる」「心を抉る」といった作品とは異なる。
スプラッター映画を見る感覚で読むと楽しめるだろう。架空の世界だからこその狂気の物語。感情移入という言葉は忘れ、単純にマッドなキャラクターたちの共演を味わうべし。
スピーディーな展開でスプラッターファンの心をくすぐる良作
『シリアルキラーランド』は、小池ノクト氏による、猟奇殺人事件の生き残りの主人公と蘇りしシリアルキラーたちを描いたホラーアクション漫画である。株式会社秋田書店によるウェブコミック配信サイト「マンガクロス」にて2021年より連載中。
筆者は(B級)スプラッター映画のファンであるが、本作の読書体験はアメリカのスプラッター映画を見ているときの感覚に近い。シリアスすぎないので余計なことは考えずに読み進めることができる。
描写はわりと過激。耐性がないと嫌悪を感じるかもしれないが、同程度の力を持つ者同士の戦闘シーンは躍動感、迫力ともにあって面白いので、ぜひ読んでみてほしい。
重厚なストーリーを楽しみたい人には向かないとはいえ、作者のようにホラー・スプラッターが好きな人にはおすすめできる作品だ。