『ろくでなしBLUES』『ROOKIES』『べしゃり暮らし』に続く傑作の予感あり
森田まさのりといえば、『ろくでなしBLUES』や『ROOKIES』、『べしゃり暮らし』(いずれも集英社)など、多くのヒット作を生み出している人気マンガ家のひとり。そんな森田まさのりの特徴のひとつとして、常に新しいジャンルに挑戦していることが挙げられるだろう。
名前を出した3作も、ヤンキー(不良、ボクシング)、高校野球、そしてお笑い芸人とジャンルレス。いずれの作品もキャラクターやストーリーはもちろん、多彩な分野をテーマに深掘りしていくスタイルで輝きを放つ。名実ともに大御所のマンガ家が、キャリアを重ねた今でも模索し続けている姿勢には、大いに感服してしまう。
そして今回紹介する『ザシス』でもまた、新たな分野を開拓。作者初のサスペンスホラーに挑んでいる。これまでの森田まさのり作品からは、なかなかイメージしにくいジャンルかもしれないが、そのクオリティはさすがのひと言。一度読み始めたら、想像以上の吸引力で読者の心を引きつけて離さないのだ。
意味深なシーン&キャラクターが奥行きを演出
中学校教師・山内海はある日、中学の同級生・鈴木侑己が殺されたことをニュースで知る。数日後、山内の恋人で文芸書の新人編集・八木沢珠緒は、公募小説の落選作の中に、事件と酷似した内容の作品を発見し……というのが物語の発端。なお、その落選作のタイトルが『ザシス』となっている。
落選作について編集部にしつこく評価を問い合わせてくる人物や、劇中小説『ザシス』の作者、そして小説の内容通りに起きていく殺人事件など、ある意味で王道とも呼べるサスペンス要素がずらり。第1巻を読む限りでは、珠緒は狂言回し的にストーリーを動かしていく役どころ、山内は事件に関係している人物として描かれていく。
サスペンスものは謎や伏線の仕掛け方もさることながら、その回収タイミングやテンポ感も重要。その点、本作ではバランス良く“答え”の一部が提示されていき、第1巻のクライマックスに向けては、ある人物の驚きの“秘密”が明かされ、一気に先行きの不透明度がアップ。ある意味でシンプルな手法ではあるものの、次巻への申し分ない引きに素直にうならされる。
小説通りに発生する殺人事件はひと筋縄ではいかなそう
第1巻の時点では、サスペンスを読み流れている人からすると多少は予想がつくポイントも少なからずあるかもしれないが、本作はサスペンスホラー。ストーリーが進むにつれ、現実と劇中小説、そして登場人物の“脳内”または“妄想”のようなものの境界線があいまいになっていき、不穏で不気味な空気感を演出。スリリングさがクセになりそう。
サスペンス系はストーリーの重要性が他ジャンルよりも高い傾向にあり、読者の求めるレベルも上がりそうだが、そこは高い画力と巧みなストーリーテリングがキラリ。少々、ショッキング目の描写はあるものの、軽く上回るクオリティで楽しませてくれる。
第1巻からアクセル全開で飛ばしつつ、繊細かつしなかやかでありながら大胆に散りばめられていく仕掛けの数々。どこまで世界を広げ、どう終結していくのか。多くの題材で傑作を生み出している作者だけに、初挑戦となるジャンルでも代表作のひとつになるような展開に期待したい。