コロナ禍のいま、等身大の幸せを見つめ直すヒントが満載『しあわせは食べて寝て待て』

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しあわせは食べて寝て待て
『しあわせは食べて寝て待て』 (水凪トリ/秋田書店)

無印良品とURのコラボも話題になるなど、リノベーションされた団地物件が若者に人気を集めている昨今。「築年数は古く、階段のみ」という不便さは否めないものの、手ごろな賃料と新築にはないゆったりとした間取り、緑あふれる敷地に魅力を感じるのはよくわかる。ただ、ちょっぴりおせっかいな大家さんが隣の部屋に住んでいて、何かあるとすぐに踏み込んでくる……となれば、遠慮したくなるのが世の常だ。でももし大家さん家に爽やかな「料理番」がいて、たまに夕食にお呼ばれして美味しいご飯にありつけるとしたら……?

そんな風につい妄想を繰り広げてしまうのは、水凪トリの『しあわせは食べて寝て待て』を読んだから。コロナ禍のいま、等身大の幸せを見つめ直すヒントが満載の本書を読み進めていると、「美味しいのに身体にもやさしい」が基本になった「薬膳」も始めてみたくなる。

目次

持病アリ38歳・独身女性の新天地は、築45年の団地!?

物語の主人公は、ただちに命に関わる程ではないものの、一生付き合っていかなければならない免疫系の持病があり、週4回のパート暮らしでなんとか生計を立てている38歳・独身の麦巻さとこ。マンションの更新が迫り引っ越しを検討していたある日、不動産屋から「築45年・家賃5万円」の団地を紹介される。内見中、大家さんが隣の部屋だと知ると「それは勘弁」と尻込みするが、大根をかじって頭痛を治す方法を教えてくれた大家さん(とその息子)の影響で「薬膳」と出会い、「こんな生活も悪くないかも」と引っ越しを決意する。

会社の同僚にも持病があることを明かさず「悠々自適だと思われても仕方がない」と諦めているものの、結婚して幸せな家庭を築いているであろう大学時代の友だちに対しては、なんとなく引け目を感じているさとこ。だが「旬の食材」に詳しい大家さんの息子との交流をきっかけに単調な日々が色づき始め、「薬膳」の奥深さにも目覚めていく……というお話だ。

著:水凪トリ
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92歳の大家さん&取引先のアラフォー女性から繰り出される金言が心に沁みる……!

「これまでの自分と比べるからしんどくなるのよ」「お金がないならないなりに、体力が落ちたら落ちたなりに、結構楽しいことって起こるわよ」「『果報は寝て待て』っていうじゃない。運が巡ってきたときのために少しでも元気になっておきなさいよ」

「『能力』って普通何かができることを言うじゃない?」「40を超えて先が見えてきた人間には、できない自分を受け止める能力の方が必要な気がするわ」

92歳の大家さんや取引先のアラフォー女性がさとこに向けて発する、実感のこもった金言が身に染みる一方で、大家さんの息子だとばかり思っていた青年は、「刺激を与えてくれるお手伝いさん」を求めていた大家さんに拾われた「ニート」であることも判明する。月々の光熱費やネット代の一部は負担しているものの、基本的には団地に暮らす人たちの「困りごと」を請け負ってはその御礼としてお裾分けをもらって暮らす、筋金入りの居候だったのだ。

傍から見れば満ち足りているように思える人だって、他人に言えない悩みの一つや二つ、みんな抱えているものだ。でも何事も「持ちつ持たれつ」の精神で支え合うこの団地に暮らしたら、「頑張れない自分」さえ認めてあげられるようになるかもしれない。過去に負った心の傷は簡単には消えないけれど、たまに美味しいご飯を誰かと一緒に食べるという、ささやかだけどかけがえないひとときを味わいたくなったら、いつでもこの漫画を読み返したい。

著:水凪トリ
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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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