犠牲を伴わない人生にこそ真の平凡と幸せがある。男子高校生の勇気ある選択と切ない終幕—— 『山羊座の友人』

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山羊座の友人
『山羊座の友人』(作画:ミヨカワ将/原作:乙一/集英社)
目次

常に隣り合わせの光と闇。平凡な男子高校生が遭遇した大事件

この世の中、一人で生きていくことは非常に困難である。

一人で生きているつもりでも、必ず誰かしらと関わっている。

決して主人公ではない、ただ平凡に生きているだけの私たちの人生でさえ、実は誰かの犠牲のうえにあるのかもしれない。

時に生きることは難しい。だからこそ、生きることは尊く美しい。そんなことを思わせる、完成された優れた漫画作品がある。『山羊座の友人』は、どこにでもいる平凡な男子高校生の、人生の転機となる切ない物語である。

原作は、乙一氏による短編小説集『メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション』(朝日新聞出版)に収録された同名作。一巻完結で実に読みやすく、短いながらもさまざまな要素が詰め込まれ、見事にまとまっている。作画はとても美しく、輝く光や吹き抜ける風をも感じることができる。繊細に描かれた登場人物たちの表情もさることながら、光と影、光と闇の表現が大変に素晴らしい。

主人公・松田ユウヤはささやかな高校生活を送っていた。

ユウヤの家は高台にあり、自室のベランダは風の通り道になっていたため、毎日たくさんの漂着物があった。そこである日、ユウヤはとある殺人事件にまつわる記事が掲載された新聞の切れ端を見つける。

その後夜の街で、ユウヤはいじめを行っていた不良・金城アキラを殺害した直後だという若槻ナオトと出会う。ナオトを助けたいと考えたユウヤは、ナオトを匿い、逃避行を始める。

ナオトと交流を深める中で、ユウヤはある真相に辿り着く。ユウヤにとって正しい選択とは何だったのか、ユウヤを待ち受ける悲しい結末とは……。

著:乙一, 著:ミヨカワ将
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些細な行動でも未来は大きく変わる、無駄なことなどひとつもない

主人公のユウヤはどこにでもいそうな一般的な男子学生である。いじめに気付いていながらも、自らの平凡な日々を守るために見て見ぬふりをする。「いじめは見ているだけの者も同罪」という考えもあるが、実際のところ行動を起こせる者は少ない。現実では、行動しても変わらず、手助けした者が標的にされる場合がほとんどだ。ただ、現状に一石を投じるのは決して無駄なことではない。些細なことで波紋が生じ、後の未来を大きく変える。被害者の心を救うことだってできるかもしれない。何かが起こってしまえば手遅れだ。僅かでも勇気があるのなら、その発揮どころを間違えてはいけない。

本作は、この世界のどこかにある“現実”なのだと思う。

「不運」という言葉で誰かの人生を犠牲にしてはいけない。誰かの犠牲と引き換えのありきたりな人生の先に、恐らく幸福はない。果たして読者の皆さんの日常はどうだろう。人並みのユウヤの生活を通して、考えてみてほしい。

起承転結がよくできたストーリーは、多くの問題を浮き彫りにしている。

大人びていようと、やはり子どもは未熟だ。

命を奪うことでしか生を実感できない子どもがいるなら、大人にもその責任があるだろう。大人には経験から培ったたくさんのことを教える義務があるし、多彩な誘惑から多感な子どもを守らなければならない。

正解がないから、心について学ぶのは難しい。まずは子どもが自分で考え、経験し、感じてみる。大人のせいばかりにしてはいけないし、子どもの思うままにさせているだけでもいけない。後から後悔することのないよう、よく考えてみよう。

本作に用意されているのは、切なく、物哀しい結末。

ただ、その結末を変えるタイミングはいくつかあった。何もしないうちから、「どうせ無意味」、「何も変えられない」などと嘆くのは野暮だ。

今とは異なる幸福な未来のためにできることはないだろうか。

本作にはさまざまなヒントが溢れている。自分なりに読み解いて、より良い未来を手に入れよう。まだ間に合うことがきっとあるはずだ。

原作の良さを引き出し、優良な漫画作品へと昇華させた一冊

『山羊座の友人』は、乙一の原作をもとに、漫画家ミヨカワ将が集英社による「週刊少年ジャンプ」のアプリおよびウェブサイトである「少年ジャンプ+」にて2014〜15年まで連載した。2015年に単行本化、完結済み、全1巻。

サスペンス要素を堪能できるのはもちろん、動きや表情が語る漫画故の儚い心理描写が格別で、名作映画を見た時のような充足感が味わえる。

結末は読み手によって受け取り方が変わり、ハッピーエンドともバッドエンドとも言い難い。分岐点はいくつもあった。選択によって結末は変わる。選択しなかった先の未来を考えてみるのも面白い。ユウヤの立場に立って、考え、自分にとって正しい選択を思索してみよう。

優れた原作を秀逸な作画によって漫画化し、その良さを最大限に引き出している本作。原作ファンの人にも一読してみてもらいたい。活字と漫画、それぞれの良さを十分に感じられることだろう。

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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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