ありそうでなかった「旅をする漫画」として、ちょっと注目してみたい『ざつ旅-That’s Journey-』。決して「大注目!」とか「大人気!」ではない、「ゆる〜い」作風が何となくクセになる……かもしれない、肩の力を抜いて読める“旅漫画”です。
あの「サイコロの旅」を彷彿させる“雑旅”とは
物語の主人公は、とある漫画賞で入賞し、賞金100万円をゲットした女子大生・鈴ヶ森ちか。中学時代から漫画家志望だった彼女は、大学に通いつつ漫画家のアシスタント……の卵をしていた。
でも、出版社に持ち込んだ作品はボツばかり。心が折れかけた彼女は、心機一転のつもりで、いきなり旅に出ることを思い立ち……。
おいおい、なんだか雑な設定だなぁ。そう思ったアナタは、正しい。だってタイトルからして、“雑旅”(ざつ旅)なんだもの。
どこへ旅立つかは、SNS上の呼びかけで投票してもらった結果次第。選択肢で「上の方」が多ければ、住んでいる東京から東北方面へ。駅で見つけたチラシを片手に、掲載されていた会津若松へと向かいます。
どこへ行く? 何をする? 何を見る? 何を食べる? どこに泊まる?
すべては風まかせ、運まかせ、なるがまま。予約などせず、ただ気ままに旅を続ける彼女の姿は、ちょっとだけカッコイイ(雑だけれどもね)。
でも実は、某番組(=サイコロを振って、出た目次第でどこかへ行っちゃう番組の企画)にインスパイアされているらしく……。バスの名前でアンケートを取った深夜長距離バスの旅、なんて物語も展開します。
気楽にどんなことでも楽しむ旅
日本地図で訪れた都道府県を塗りつぶし始めた彼女は、徐々に旅へとハマっていきます。まだ行ったことがない都道府県を目指し、次の旅はどうしよう……? と。
ただ、いわゆる旅番組的な観光スポット紹介や、情緒たっぷりな旅見聞録といった要素に期待しすぎると、肩透かしを食らうので要注意。新幹線の座席にコンセントがあることすら知らず、歴史や史跡・名所の知識も「イセジングウ(伊勢神宮)って何?」レベルな女子旅ですから。
まさに、ゆるゆるな“ざつ旅”。その代わり、旅先で何をするのか、何を見るのか、何を楽しむのかは気分次第。その旅ごとに気分もコロコロ変わるわけで、何が起こるかわからない面白さを味わえます。
下調べもしていない旅だけに、訪れた場所が休業中だったり、さまざまな理由から目論見が狂ってしまうこともしばしば。
何やってんだか……。しょーもないなぁ……。でも、楽しそうじゃん。
そう、「気楽にどんなことでも楽しむ」ことが、彼女流の“ざつ旅”スタイル。「あの時ああすればよかった……って思うのがイヤなだけなんだよ」と語る彼女が羨ましく見え、なんか旅したいなぁと思えればマル。
逆に、「自分もここへ行きたい!」「すげー旅してるじゃん!」といった強い目的を望むなら、バツ。その意味では、評価が極端に分かれる作品かもしれません。
SNSと物語が連携する面白さも
そもそも旅の基本が1泊2日で、時間に制約がある鉄道中心の旅なので、多くを期待するほうが無理なわけで。
とはいえ、だからこそ親近感が湧くとも。特別なことは何もしない、何もできない、ごくごくフツーの旅って、だいたいこんな感じでしょ?(そう思わせる雑さが、作品の味だったりも)
ついに足を踏み入れた憧れの地・北海道でも、ふと目に留まった活火山・駒ヶ岳を目指したものの、特急列車で寝過ごしてしまいアウト。「山に呼ばれた気がする」という壮大なフラグは何だったんだ!? などと突っ込んだら、負けなのです。
そんな彼女ですが、いつしか旅の仲間も増え、ひとり旅から女ふたり旅・三人旅とバリエーションが広がっていきます。
また、コロナ禍で20代の取得者が激増したといわれるバイクの免許にも、ちゃっかり合格。自分より年上の古いカブを入手し、カブ旅(バイク旅)の準備も着々と……。バイク好きでカブ主(=カブに乗っている人)な筆者的には、今後の展開が楽しみに。
ちなみに、Twitter上には主人公・鈴ヶ森ちかのアカウントがあり、そこでの「次の旅先は?」アンケート投票が、作中の「どこへ旅する?」と繋がっていたりします。SNSと作品が連携する面白さも、ちょっと新鮮な感覚ですよ。