『少女終末旅行』2人の少女が紡ぐ、儚くも切ない“終末世界”の旅物語

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少女終末旅行
『少女終末旅行』(つくみず/KADOKAWA)

文明崩壊後の近未来、“終末世界”を舞台にした物語は、漫画やアニメでひとつのジャンルを築くほど定番化しつつあります。今回は、そうした大きな流れを作り出すきっかけともなった作品、『少女終末旅行』を見つめ直してみます。

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旅する足は旧ドイツ軍の半装軌車・ケッテンクラート

まずは、『少女終末旅行』の設定&世界観を整理しておきましょう。

物語の舞台は(おそらく)近未来。その“終末世界”を旅する少女、チトとユーリが、主人公&ヒロインに。

2人の移動手段は、第二次世界大戦で使用された旧ドイツ軍の半装軌車・ケッテンクラート。バイクと装甲車を組み合わせたような半装軌車は、メカ好きにはたまらない乗り物だったりします。このケッテンクラートをひと目見て「おぉっ」と思えるかどうかで、本作品の見方が大きく変わる!?

2人は廃墟となった都市をさまよいながら、立体構造らしい都市の上層部を目指します。その目的は? 彼女たちは、なぜ旅を? そもそも、彼女たちが生き残っている要因は? 他の生存者は? 文明崩壊の原因は? さまざまな謎が、2人の旅を通して少しずつ見えてきます。

こうした推理ミステリー的なギミックは、今や終末世界作品の定番手法ともいえるでしょう。

優しさと小さな幸せが心地よい物語

作者のつくみず氏は、電子書籍サービス「ITmedia eBook USER」のインタビュー中で、本作の世界観が『BLAME!』(弐瓶勉/講談社)の影響を受けているとも語っています。

全体像が見通せない巨大構造(建築)物と、小さな人間像。その組み合わせからは、確かに『BLAME!』の影響が色濃く感じられます。視覚的にも印象深い大小の対比は、終末世界の謎めいた印象を色濃くさせるはず。

と同時に、2人が旅する街の描き込まれた背景・光景に、知らず知らずと引き込まれていきます。極度な強調もなくデッサン画に近い作画ながら、そのシンプルさと適度なデフォルメ感は、かえって読み手の想像力をかき立てます。

無機質な構造物に思えた巨大都市の機械群も、2人の何気ない日常や、時にピンチな状況を通し、その存在に意味があるとわかってきます。この過程が、優しく丁寧に描かれる点も見逃せません。

SF的な作品では、世界観の個性が不親切さや冷酷さにつながりがちです。でも、本作品にそうした要素はありません。切なく儚いものの、どこか優しく、暖かい。それこそ、『少女終末旅行』の本質なのかもしれません。

人気作にありがちな強烈な個性・主張とは、真逆の作風ともいえます。当初は戸惑いすら感じさせた地味さが、いつしか心地よくなっていく不思議さ。彼女たちが旅の途中で見つける“小さな幸せ”は、とても素敵なものなのです。

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永遠に続くわけではない旅の行方

2人の旅に絶えず漂う孤独感や無力感も、無機質な巨大都市構造と“ちっぽけな”人間の対比が生み出す構図でしょう。

次々と降りかかる事象に向き合った2人は、現実を受け入れつつ、自分たちなりの結論や答えを導き出そうとします。

切なく哀しい作業を淡々と享受し、昇華していく2人。見た目は、とても弱々しい女のコなのに。そのタフさに感心し始めたなら、もう彼女たちの虜?

やがて旅の目的が見えてきた彼女たちは、旅が永遠に続くわけではないと悟ります。

「ねぇ、地球終わるんだって」

「うん、まぁ……どうでもいいことだろ……」

「これが生きることなんだろうか。暗闇から来て暗闇の中へ還っていくみたいに」

物語を通して描かれる2人の会話は、どこか観念的で、心に刺さるもの。彼女たちが何度となく口にする“暗闇”の意味は、ついにたどり着いた最上階、最後の地で明らかに……。

永遠には続かない、儚い旅。そこに自らの生き様を重ね合わせてしまうのは、自分だけでしょうか……。

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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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