シンジの“違い”が物語の行く末&見え方を激変させる。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』鑑賞前に読んでおきたい“貞本エヴァ”

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エヴァンゲリオン
『新世紀エヴァンゲリオン』貞本義行著・カラー原作/KADOKAWA

※序盤の展開などについて一部ややネタバレあり

目次

同じ世界観でありながら主人公の“想い”一つで別世界に

2020年、コミック&アニメで大きな脚光を浴びたのが『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴著/集英社)。その興奮も覚めやらぬ中、忘れてはならないのが1995年にアニメ放送を開始した『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズの劇場版最新作の公開日決定のニュースだ。テレビシリーズ後は旧劇場版の公開、さらに2007年からはあらたな劇場版シリーズとして『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』がスタート。これまで『序』『破』『Q』の3作が公開されてきたが2021年、いよいよ“完結編”となるであろう『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』がお目見えする。

誕生時から何かと話題を振りまき注目を集め続ける作品だが実は……といってもご存じの方も多いだろうが、同作のキャラクターデザインを務める貞本義行によるコミカライズ版が存在。通称「貞本エヴァ」とも呼ばれているが、基本的にテレビアニメに沿う形で進行するが、キャラクターの設定やストーリーの細部など異なる要素も多い。

なかでも特に注目すべき点は、主人公・碇シンジ。同じ物語のおなじ名前、同じ容姿のキャラクターでありながら、極端に言ってしまえば性格や思考回路が正反対とも言うことができ、その彼の“差”がそのままアニメ版とマンガ版の味わいの違いを生み出していると言っても過言ではないだろう。

おなじみのあのセリフもまさかの……!?

主人公である碇シンジというキャラクターは、ある世代にとっては日本アニメを代表する主人公を示すアイコンとなっている。彼を語る際、「ナイーブで傷つきやすい」「内向的で自分の殻に閉じこもっている」などネガティブ方面のイメージがつきまとうが、マンガ版でのシンジはどちらかというとポップな印象。ささいなことでいえば、第1巻収録の「STAGE.1 使徒襲来」のP15で、葛城ミサトの写真を見た際のモノローグ的にフキダシ外に書かれた「コイツオヤジの何?」というセリフは、アニメ版からはおよそ想像ができない内容だ。

さらに驚くべきは、シンジが初めて初号機に乗ることを決意する際に放った代名詞的とも呼ぶべき「逃げちゃダメだ」というセリフ。マンガ版ではこの言葉を口にしないだけでなく、「おもしろいじゃないか! やってやる!」(第1巻P80「STAGE.3 初号機、出撃」より)と不敵な笑みまで浮かべている。主人公らしからぬ鬱々としたシンジのキャラクターがアニメ版の人気に火をつけた理由の一つであることが間違いはないが、マンガ版のようにポジティブに振り切る姿もすがすがしく、物事が見える側面や角度も変わってくるから興味深い。

そして最大の注目ポイントが渚カヲルとの関係性。アニメ版同様カヲル自身のミステリアスさに変わりはないが、マンガ版では野良猫に対する激しい行為やセリフといった、純粋さの裏に見え隠れする狂気のような側面が強調して描かれている。さらにシンジと心通わすような描写はなく、どちらかというとカヲルの行動や発言にシンジが戸惑う、突っかかるというシーンが多めだ。

極めつけがカヲルに対して言い放った「もう一度言ってみろ!」「もう一度言え」「前歯全部折ってやる」(第10巻P71「STAGE.66 心届かず」より)という“名言”。おそらくアニメ版と役割自体は変わらないカヲルだが、マンガ版シンジの心情や行動の核となっているモノを示すのには、これ以上ない演出かもしれない。

すべての“可能性”を捨てないということが本作の醍醐味

主人公であるシンジのキャラクター像が変化していることに伴い、先ほどのカヲル同様、綾波レイや碇ゲンドウらのパーソナルにも多少なりとも変化が生まれている。何がどのように違うかは実際に読んで確かめてみてほしいが、登場人物たちの想いの変化がまたストーリーへ大きく影響を与えている。

本シリーズには、すでにいくつもの“ラストカット”が存在。そのすべてが物語の結末であり、そうでないとも言える。そういった多面性や多様性とでもいうべき“人の可能性”について描いているとも考えられるし、単純にエンターテインメント作品として視聴者や読者を楽しませる展開を積み重ねていった結果とも類推できる。

原作であるアニメ版や、そこから派生していった作品と明らかに異なる雰囲気や性格で進行していく漫画版ではあるが、それでいてシンジ自身に降りかかる騒動については、貞本エヴァでは多少の判断の誤差や結果の相違などは生まれてもTVアニメ版の“基本路線”を大きくぶれさせていかないのも不思議。なぜ、キャラクターをわざわざ再設定しておきながら、このラストカットへと落ち着いていったのか、この描き方にしたことで登場人物達が摑み取った選択は何だったのか……という議論もできそうだ。

もちろん受け手それぞれの視点で楽しめるのがエンタメの良さであり、本シリーズにおいても最大の魅力。新劇場版シリーズでも新たな“ラストカット”が提示されるだろう。マンガ版“ならでは”のラストを迎えたマンガ版との比較も楽しみだ。好みはあるだろうが、現段階で、可能性という意味においてはマンガ版は、エヴァンゲリオンシリーズ随一の実に爽快な“ラストカット”とだろう。

最終巻に収録された「EXTRA STAGE」の内容も意味深で示唆に富んでおり、考察好きにはたまらない。「もう一つの物語」であるマンガ版、新劇場版の鑑賞前に是非とも一気読みをおすすめしたい。

KADOKAWA
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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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