「宇宙世紀サーガ」最新作のマンガ版は原作小説の“完全コミカライズ”がウリ
『機動戦士ガンダム』の生誕40周年の記念作品、さらに「宇宙世紀」の“次の100年”を描く「UC NexT 0100」プロジェクトの第2弾として制作された劇場版アニメ『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(村瀬修功監督)。「宇宙世紀サーガ」の最新作は、公開4週目の7月4日までの時点で、興行収入が15億円を突破するなどヒットを飛ばしている。
本作は、“ガンダムの生みの親”である富野由悠季監督が、1989~1990年にかけて発表した同名小説が原作。ファーストガンダムにて初登場を果たした「ホワイトベース」の艦長であるブライト・ノアの息子、ハサウェイ・ノアを主人公にストーリーが進行していく。
時系列的にはアムロ・レイとシャア・アズナブルの“最終決戦”を描いた『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』後の世界が舞台となっており、宇宙世紀ど真ん中の物語なのだが、これまで映像化されることがなかった。ファンからも熱望されていた作品の劇場版アニメということもありヒットもうなずける。
そんな『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』にマンガ版があることはご存じだろうか。富野監督の小説を“完全コミカライズ”というキャッチコピー(※単行本第1巻帯より)がまぶしいが、アニメだけではなくマンガでも『閃光のハサウェイ』の世界観を楽しめると思うと、自然とワクワクしてしまう。映画を観てから読むか、マンガを読んでから映画を観るかで悩んでしまったほどだ。
「ガンダム」シリーズ、そして『閃光のハサウェイ』の“時代性”&“空気感”を見事に再現
本作の概要を簡単に説明しておくと、舞台となるのは「第二次ネオ・ジオン戦争(シャアの反乱)」から時が流れた宇宙世紀0105年。同戦争で苦い経験をしてしまったハサウェイが、反地球連邦政府運動「マフティー」のリーダーとなり、地球連邦政府に反旗を翻す。その中で、ハサウェイ自身が新型モビルスーツ(MS)「Ξ(クスィー)ガンダム」に搭乗するほか、謎の美少女であるギギ・アンダルシアや連邦軍大佐のケネス・スレッグらと出会い、運命を交錯させていく……といった、とても“ガンダムらしい”テイストが盛り込まれた作品となっている。
第1巻は劇場版アニメの冒頭と同じように、物語の幕開けが描かれていく点はほぼ共通。ただ、ハサウェイがなぜマフティーに参加し、そのリーダーである「マフティー・ナビーユ・エリン」を名乗ったのか。どうして地球連邦政府に対してテロを仕掛けていくのか。そのあたりの描写がやや繰り上げて綴られていることもあり、『閃光のハサウェイ』の初見がマンガ版の人でも登場人物の性格や動機、物語の世界観といった核となる部分がしっかり理解できるのは好印象だ。
劇場版アニメは3部作、マンガ版も連載序盤なので、これからの発展や展開によって印象は変化していくのだろうが、現時点では何ともいえない“無常感”や“閉塞感”など、ストレートな描写こそないものの作品を包み込む“闇”や“暗さ”のような空気感が充満。ただ、それがイヤというわけではなく、むしろ好感が持てるほどに『閃光のハサウェイ』という作品、ひいてはハサウェイ・ノアの生き様を描くにふさわしい雰囲気といえるだろう。
小説『ベルトーチカ・チルドレン』の続編となるマンガ版の気になる“行く末”
物語が進むほどに、いろいろな意味で“ハード”な面が前面に出てくることも増えていくことは、原作を読んだことがあれば察しはつくのだが、少し大人びたタッチで描かれているハサウェイのビジュアルからも感じ取れるように、落ち着きと味わいのある作画がバランスを保ちつつ、深く濃く作品を醸成してくれることにはおおいに期待が持てる。
そんなマンガ版をより楽しむ上で知っておいてほしいのが“原作”の扱い。劇場版アニメもマンガ版も同じ物語をベースとしているのは間違いないのだが、劇場版アニメはアニメ映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の続編、マンガ版は小説『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』の続編という立ち位置になっていること。
最大のポイントは、アニメ映画も小説も基本となるストーリーは共通なのだが、大きな違いはハサウェイが抱え込む“トラウマ”の要因に関する描写。『逆襲のシャア』に登場するクェス・パラヤがたどる“末路”が異なっているのだ。このことが両作品にどう影響を与えるかは今のところはわからない。もしかしたら、マンガ版も劇場版アニメも、特に劇場版アニメは結末が原作とは変化する可能性もゼロではなさそう。マンガ版も原作小説の完全コミカライズを謳ってはいるものの、どうなるかは“神のみぞ知る”だ。
ただマンガ版では、回想でベルトーチカ・チルドレンでのアムロの搭乗機だった「Hi-νガンダム」とシャアの搭乗機であった「ナイチンゲール」の登場シーンをさりげなく入れ込むなど、“『ベルトーチカ・チルドレン』色”を濃いめに表現しているのは絶妙。シンプルだが、こういった演出を盛り込んでくれるのはシリーズファンとしてはうれしいところだ。
個性豊かなキャラクター、インパクトや意味深なセリフ、颯爽としたMS戦、モヤモヤしながらも引き込まれる人間関係など、「ガンダム」要素もばっちり。ちょっとした陰鬱さも巧妙に魅せてくれるマンガ版の行く末は気になるところ。劇場版アニメと合わせて今後も鑑賞&熟読して考察を深め、また別の機会に改めて分析してみたい。