思いがけない主人公像に一気に心をつかまれる
主人公が数十年ぶりに映画館を訪れると、そこには人生を変えるような衝撃的な出来事が待ち受けていた。劇場で映像専攻の美大生と出会った主人公は、自分が「映画が撮りたい側」の人間なのだと気づく――。
こんなあらすじだけ見ると、年齢的にはいっても20代ぐらいの主人公を想像するかもしれないが、本作の主人公・うみ子はなんと65歳。夫とは死別し、何の気なしに映画を観に行くところから物語がスタートする。ここで上記のあらすじを今一度振り返ってみてほしい。そう、うみ子は65歳にして自身の“やりたい”もしくは“やってみたい”ことに気づくのだ。これはなかなか衝撃的な設定と言える。
厚生労働省の発表によると、2020年の日本人の平均寿命は、女性が87.64歳、男性が81.64歳であり、いずれも過去最高を更新。もはや「人生100年時代」というものが間近に迫ってきているが、そこで考えておきたいのが長い人生で「何をするか」「何をしたいか」ということ。本作では、そんな人生の命題のようなものを、うみ子を通して描いていく。
何かを始めるのに遅いことはないとは言うけれど……
久しぶりの映画鑑賞中、うみ子は「映画を観ている人が気になる」という性分から、ある若者と目が合ってしまうのだが、その若者が美大生・海(カイ)。ユニセックスな見た目の彼が、うみ子に対して「映画作りたい側なんじゃないの?」「今からだって死ぬ気で映画作ったほうがいいよ」と投げかける言葉が、とても鮮烈で刺激的。こんな華麗な一言をささやける海はかなり素敵だ。
そんな甘美なささやきにもうみ子は、自分はあくまでただの映画好き、しかも年齢も……、と自分を卑下しつつブレーキを踏んでしまうのだが、それでもあらがえない衝動に海の一言が効いてくる。そして海との出会いにより、次第に自分の内に眠る創作意欲に飲み込まれていく。映画熱に浮かされていくうみ子の姿を見ていると、何か新しいことを始めるのに年齢を気にする必要はない……ということを心底、痛感させられる。
もちろん、言うは易く行うは難し。誰もが見つけられるわけでもなければ、誰しもが踏み出せるとは限らないことも理解できる。そんな“正論”をしっかり認識していたとしても、うみ子と海からにじみ出る情熱がどこまでも心地よく、素直にキラキラして見えるから不思議だ。
熱くて深いメッセージが込められたストーリーに期待
タイトルにある「エンドロール」という言葉。物語が進めば、さまざまな意味合いが込められていることに気づかされていくかもしれないが、うみ子にとってはきっと人生における“第1章”がエンドロールを迎え、海と出会い、映画作りに心惹かれていくことが“第2章”なのかもしれない。
そこにはその境遇にたどり着いた人にしか想像できないような“ドラマ”が無数にあるに違いない。うみ子にとっての映画を“夢”という単語で表現するのは、ちょっと陳腐に聞こえてしまう可能性もはらんでいるが、それでもあえて“夢”と呼ぼう。夢に向けて熱く胸を焦がす。それだけでもうらやましく、憧れを抱いてしまう生き方に感じられる。
ファンタジーのような設定だが、そこには高齢者、若者両方の想いや苦悩といったリアルな部分も盛り込まれ、地に足を着けた味わいも。テーマがテーマだけに、年齢や性別問わない作風も◎。1巻の表紙はかなりインパクトがあるのだが、作品を読むことで自ずとその熱量に納得がいく。物語はまだ始まったばかり。“名作”の匂いを漂わせる本作に大いに期待したい。