話題を呼ぶには“理由”がある!メルヘンの皮を被った社会の“ゆがみ”を巧みに描いた作劇が強烈――『タコピーの原罪』

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タコピーの原罪
『タコピーの原罪』(タイザン5/集英社)
目次

“ハッピー”や“救われる”ことの意味を考えたくなるストーリー

昨年(2021年)12月の連載スタート当初から人気を博し、約3カ月半の連載を駆け抜け先日、完結巻となる下巻が発売された『タコピーの原罪』。ハッピーを広めるため地球にやって来た「ハッピー星人」は、窮地に陥ったところを小学生の少女・しずかに助けられる。「タコピー」と名付けられたハッピー星人が、しずかと交流する中で、いじめを受けて笑えなくなっている彼女の笑顔を取り戻そうとする姿を描く。

こう書くと、ファンタジックでハートフルなストーリーをイメージしてしまいそうだが、本作はそれだけにとどまらないことが大きな反響を呼んだ要因の一つだろう。

そもそもタコピーはいじめという概念が理解できない。そのため、不思議な力を発揮する「ハッピー道具」でしずかの人間関係を改善しようとするが、そういったことで事態が改善するわけもなく。1話からいきなり衝撃の展開が待ち受けている。タコピーは、自らのやり方の何が間違っていたのかを理解できぬまま、改めてしずかを元気づけようと奮闘することになるのだが……“クセもの”であるハッピー道具が運命の歯車を右へ左へと揺り動かすことになるのだ。

著:タイザン5
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絵のタッチに反してヘビーな要素も含む展開は想像の斜め上をいく衝撃度がやみつきに

物語の幕開けから、そこかしこに漂う“危うさ”や“不安”をまとう空気感。ある意味、読者の“期待”を裏切らない展開でグイグイと引きこんでくれるのだが、ヘビーさの中にもタコピーのゆるキャラ的な、どこかミスマッチな要素が作品世界のアンバランスさを際立たせている。しかもタコピーはしずかや、ひいては人間のことがわからず、常にハッピー思考であるため、やり取りの中でもすれ違いが多くなりがち。何ともいえないモヤモヤ感はあるものの、そこから目が離せなくなるのが不思議だ。

その不穏でちぐはぐな印象を決定づけ、これでもかとたたきつけてくるのが第4話。より深みへと踏み込んだエピソードは、内容もさることながら、同話のラストで作品タイトルでもある「タコピーの原罪」という文字が描かれ、構図的にも演出的にも強烈に訴えかけてくるものがある。

そして第11話では、物語の見え方に揺らぎのようなものを芽生えさせ、さらには世界の根幹を支えていると思われる要素にも刺激的で言葉にはならないギミックを放り込み、読者の心理をぐらつかせ、構図も含めた考察心を刺激。実にマンガ的な演出や仕掛けの巧妙さにうならされる。

読み終えたときにどう感じるかで“本当の自分”に気づく……?

本作にはいじめなど、実に多くの社会的な問題が多分に描かれているが、それらはすべて子ども側の視点というのが興味深い。劇中には大人も存在し、しずからに影響を与えているのだが、自分たちが子供の時を振り返ってみてもそうだったように、ある種大人から“隔絶”していることが、子どもの世界というもの。その作用が今作の見え方や読む側のとらえ方に影響している。そう考えるのはうがち過ぎだろうか?

しかも現実でもしばしばあることだが、被害者が加害者に、加害者が被害者にという現象は少なくない。本作でも見る角度が変わればその人物のキャラクターや立ち位置も異なるという点について、実に見事な入れ子構造でストーリーに奥行きを持たせている。

しずかとタコピー、彼女らがたどった“顛末”は是非とも確認してみてほしいが、あの最終回をどう感じるかは、読んだ人それぞれの人生観が試されているようで面白い。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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