遊戯史学という独自の視点から事件の謎を究明
興味深いストーリーを楽しみながら、新たな知識を得ることもできる秀作。『戸村助教授のアソビ』は、遊戯史学研究家の戸村シロウが刑事と共にさまざまな謎に迫るミステリー漫画である。遊戯史学という特異な観点から謎を解く様は、実にユニークでためになる。
恥ずかしながら、筆者は遊戯史学なる学問は初耳だった。だが本作に触れ、その奥深さを知った。学問というものは実に面白い。遊戯史学においても、遊戯の誕生やその歴史を学ぶだけかと思いきや、研究の中で幅広い知識を得ることができる。例えば、本作に登場する古代エジプトで遊ばれていた「セネト」。古代エジプト人の死生観を反映したこの遊戯盤を研究することで、その地域史や宗教観まで学ぶことができるのだ。
戸村の知識は広く深く、研究者でなければ気付けない些細なことでも決して見逃さない。古来続く「遊び」は、あらゆる形で現在にも息づいているのである。本作には新たな発見や気付きも多く、“識る喜び”を再認識することができる。展開やストーリーも緻密で味わい深く、さらに学びがある。有意義な読書時間を過ごせることだろう。
七天王子大学で遊戯史学の准教授を務める戸村シロウ(本人が「助教授」と呼ばれたがる)は、巡査部長の巻田巌、巡査の司京子に依頼され、事件解決のために助言するようになる。
事件に関する遊戯に係る証拠品を基に、さまざまな事件の真相を炙り出していく。現代を生きる私たちとも深く関わる「遊戯」とは……。
唯一無二、没入度の高いクセになる独創的な作品
「とあるスペシャリストが刑事に助言する」という設定の漫画はよくあるが、本作にはそれらの作品と一線を画す独創性がある。
まず、劇画調の作画はどこか美しく、おどろおどろしさを感じさせる。細部まで丁寧に描き込まれていて、他にはない世界観を創り出している。常に作品を覆う古めかしさや仄暗さもクセになる。
また、緻密なストーリーに巧く遊戯が絡められているため、セリフにもモノローグにも説明くささがなく、すんなりとその世界観に没入することができる。テンポも良く、事件ごとの構成もしっかりしているので大変読みやすい。あまり馴染みのない遊戯も大変興味深いが、鬼ごっこや靴飛ばし、“いないいないばあ”といった全ての人にとって馴染み深い遊びが登場するのも楽しい。全ての学びに意味がある。遊びでも、そのからくりを知れば勝てるようになるだろう。
ギャンブラー然とした戸村や昔気質の巻田など、主要キャラクターの設定も秀逸。戸村の特徴的なヘアスタイルはもちろん、オールドファッションな出で立ちにも注目してほしい。不思議と時代を感じさせない奇異な雰囲気がまた良い。
殺人事件なども登場するが、本作は人というより事件そのものにフィーチャーしているためグロテスクさはあまりない。やや過激な描写もアーティスティックに感じられる。昭和期のホラー漫画好きにはぜひおすすめしたい。
遊びや遊戯というと娯楽の印象が強いが、意外にも私たちの生活と深く結びついている。子供の人格形成や成長に深く関わるものもある。なぜそのような遊びがあるのか、何を目的としているのか、改めて考えてみるのも面白い。
遊戯の奥深さは計り知れない。古代の遊戯を知ることで、当時の人や生活に触れ、それに込められた思いが分かる。筆者はこれまで遊戯について深く考えたことはなかったが、本作でその深奥さを再認識することができた。
全ての面で読み応えたっぷり。不可思議な没入感とディープな読後感は本作でしか味わえないだろう。
面白くてためになる!どこまでも深い戸村ワールドへダイブ
『戸村助教授のアソビ』は、原作・都伊カオル氏、作画・富田童子氏による、遊戯史学のスペシャリスト・戸村シロウが独創的な推理で謎を解き明かすミステリー漫画である。男性向け週刊漫画雑誌「週刊漫画ゴラク」にて2021年より連載され、未完、既刊1巻。
楽しく読めて勉強にもなるので、勉学中のひと休みにももってこいだ。
どの話も完成されていて、オチも素晴らしい。独特な世界観と作画のタッチには趣深さや懐かしさを感じ、いつの間にか戸村ワールドにどっぷりはまっている。「この遊びにはこんな意味があったのか!」「この遊びにはこんなコツがあったのか!」と、たくさんの発見もあるのでとても刺激的。本作が新たな学びのきっかけになるかもしれない。
ホラー要素はないが、事件の中でホラー描写はあるので、昔懐かしい大御所漫画家作品の雰囲気が好きな人たちの心をくすぐること間違いなし。今はないあの特徴的な奇妙さと、現代的な美しさを同時に堪能することができるので、ぜひ一度戸村ワールドに浸かってみて。