オリジナル要素で面白さに拍車を掛ける
あまり結びつきや関係性が想像つかない要素同士を組み合わせると、思っている以上の爆発力を生み出すケースはしばしばあるが、本作もそんなひとつの事例に挙げられるかもしれない。就活とミステリー。ありそうでなかった組み合わせから構成された『六人の嘘つきな大学生【プラス1】』が興味深い。
ご存じの方も多いだろうが、本作は浅倉秋成の小説『六人の嘘つきな大学生』(KADOKAWA)が原作のコミカライズ版。原作小説は4大ミステリーランキング、「ミステリーが読みたい!2022年版」(早川書房)「このミステリーがすごい! 2022年版」(宝島社)「2022本格ミステリー・ベスト10」(原書房)「週刊文春ミステリーベスト10 2021」(文藝春秋)を賑わせたほか、「2022年本屋大賞」にもノミネートされ、「ブランチBOOK大賞2021」では大賞に輝いている。さらに人気声優によるオーディオブック化や、映画化に舞台化など、多彩なメディアミックスでも話題を振りまいている。
そんなプロジェクトの一環としてマンガ化もされたので、面白さは折り紙付き。そんな作品のコミカライズ版となるとややハードルも上がるものだが、小説とは少し異なる要素の盛り込みも事前に告知されているなど抜かりなし。小説を読破済みの人も未読の人も楽しめる仕掛けは好感が持てる。
視覚情報があることで新たな描写効果も
本作の舞台となるのは、IT企業「スピラリンクス」の採用面接。最終選考まで残った6人の就活生たちの内定をめぐり、“嘘”と“罪”がさらけ出されていくストーリーが、ミステリー仕立てで描かれていく。
どのような形であれ、多くの人が経験したことがある就活を軸にした展開は素直に興味が引かれる。公式のキャッチコピーとして「こいつら全員、クズ――超人気企業の内定を巡る密室心理戦ミステリ!」と銘打たれているが、たしかに就職における面接は“密室”であり、そこで何が行われ、何が語られているのかは当事者たちしか知らない。まさにミステリーに欠かせない基本要素を備えている。当たり前かもしれないが、そこに着眼する発想力には驚かされる。
小説版でも登場人物たちの心理描写に読む手が止まらなかったが、マンガ版には絵や画という視覚情報がプラス。だからこそ表現できる落差や熱量が押し寄せてくることで、また別の角度からの面白さも感じさせてくれる。まさにコミカライズ版の醍醐味と言えるだろう。
原作タイトルには存在しない【プラス1】が示すものとは……?
最終選考のグループディスカッションに残った就活生6人は、最初は全員内定が出る可能性も示唆され、チームを組んでいた。だが、その後企業から内定を出すのは6人の中の1人に変更と通達され、一気に険悪ムードに。さらに差出人不明の告発状がグループディスカッション当日に届き……と、ミステリーとしても人間ドラマとしても、先を読みたくなる前振りとなっている。
実にさまざまな要素で興味を引く本作だが、内定をめぐる争いは“デスゲームもの”のようでもあり、それでいて告発者が誰なのかという謎も。就活とミステリーが絶妙なバランスで刺激し合い、異色の物語を見事に演出している。1巻クライマックスの引きも巧みで抜群だ。
コミカライズ版はまだまだ始まったばかりだが、気になるのはタイトルに付け加えられている「プラス1」というタイトル表記。これが原作との違いを指し示す表現なのか。それともまた別の意味合いを持つ言葉なのか。今後の展開に期待したい。